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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :05/04/23:26

05101510 Day35 -魔女-


   -ⅰ-

 ふわりふわり、足場の悪い砂地を、軽やかな足取りで乙女は歩く。

 さらさらと風が吹くだけで流れる粒の細やかな砂の上。

 どのような技術によるものか、足跡ひとつ残らない。

 目指すのは遥か遠方に感じるとても儚げな気配――乙女を呼ぶ存在。

 それが、どのようなものなのか、想像のうちに思い描いてみる。

「ふふ、素敵な殿方だと良いのだけどぉ♪」

 想像は自由だ――乙女の微笑に合わせて、薄桃色の日傘がふりふりと揺れた。

 いまとなっては懐かしい遺跡の擬似太陽が、さんさんと乙女を照らしだしている。

 夢の中に目覚めてからここへ至るまでに、乙女の感覚では一日が過ぎていた。

 これほどまでに、長い夢を見た経験はない。

 不自然な夢の世界――目覚めるには、それと出会うほかはない。

「……何を、果たせというのかしら?」

 自然のうちに、乙女は理解している。

 何かを果たさなければ、けして、この夢が醒めることはないのだと。

 なぜ、乙女が選ばれたかは定かではない。

 偽りの島――遥か南方に存在するという、宝玉の眠る島。

 かつて、乙女自身が時を過ごした。

 そんな乙女が、この地を離れて、もう、三年が経過している。

 望んでのことではないが、最終的に離れることを決意したのは乙女に他ならない。

 強制的な退去までに、時間は残されていたが、乙女は一足早く旅立ったのだ。

 誰にも、最後の別れを告げることなく――

 とても、不義理なことをしてしまったと思う。

 いち早く旅立ちたかった――それは、乙女自身のエゴでしかない。

 しかし、その決意を乙女に与えてくれたのは、乙女を支えてくれた人々。

 偽りの島の冒険で、出会った人々の存在に他ならない。

――寂しさを教えてくれた彼女が、残していった孤独。

 それが、乙女をこの島へと導いた。

――それを癒してくれたあの子たち……。

 脳裏に浮かぶ、乙女サロンの賑やかな風景。

 そこに足を踏み入れたことのない不器用な男と、幼い少女の姿も思い浮かべられる。

 彼女たちと過ごした日々が、乙女に過去と向き合う勇気を与えてくれた。

 それから、三年――乙女は世界の紛争地帯を歩いて回った。

 自身がもたらした結末と向き合い――全てを、受け止めた。

――お墓参りも、何年ぶりだったかしら。

 それはきっと、初めてのことだったかもしれない。

 三年、短い期間ではない――だが、全てを回るのに、三年を要した。

 傷も、新たに増えた――それほどの、旅だった。

「……そして、あの子と出会った」

 真に目覚めれば、その少女は、乙女の腕の中で寝息をたてていることだろう。

 始まりの島――いつしか、乙女はこの島をそう呼ぶようになっていた。

――血と殺戮に彩られた戦いの日々
 
――彼女と暮らしたスリル溢れる生活
 
――その果てに手に入れた、第三の人生

 その日から、乙女は探し続けていた。

 始まりの地を。

 そして、乙女にとって、終わりとなるであろうこの地を。

「探しても見つからないこの島が、夢の中で見つかるなんて♪」

 一度離れた島への道は、思い出すこともできない。

 それが、招待状に記されたルール。

 望みを手にするか――全てを失うか。

 さもなければ、島を離れることはできないのだ。

 不完全な状態で離島したためか、その全てが失われたわけではなかったが。

 かといって、たどり着くことは容易でもなかった。

 その明確な情報を手にしたのは、昨夜、眠りに就く前のことだ。

 古びた宿の一室――簡素なベッドの枕元。

 かつて見たものと同じ手紙が、そこに落ちていた。

 偽りの島へと冒険者を誘う、何者かからの招待状。

 運命の片道切符を、乙女たちは手に入れたのだ。

「その直後に、この夢――できすぎ、というものねぇ?」

 自問自答――因果的なものを感じずにはいられない。

 探しても探しても見つからなかったものが、こうも簡単に見つかったのだ。

 乙女の勘は、その背景に何かを感じとる。

「あら――」

 もの思いに耽りながらも、足を進める乙女の前方に、何者かが立っていた。
 美しい白砂の砂漠にあって、それよりもなお白い人影。

 まるで、ウェディングドレスのような衣装を身にまとい、眠るように目蓋を閉じている。

 近づくと、とても美しい女性だと知れた。

「まぁ……♪」

 その端正な横顔に、思わず嘆息する。

――物語の中の眠れる森のお姫様みたいな方ねぇ♪

 ドキドキと高鳴る胸――それは、乙女回路の超反応。

 乙女は足を止めて、女性に向かってにこやかに微笑みかけた。

 眠っているのか、起きているのか。

 にこにこしながら、じっと眠り姫の動向をうかがう。

「――あなた」

 乙女より先に、眠り姫の唇が涼やかな声を紡いだ。

「……お料理は、得意かしら?」

 女性の問いかけ――乙女の瞳がキラキラと輝く。

 白砂の稜線が描き出す美しい風景の中。

 乙女は、眠れる茨の魔女と、出会った。
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05101509 Day34 -乙女-

   -ⅰ-

 ――それは、天啓だった。

 三年ぶりに戻った街――かつて暮らした住まい。
 その入り口に程近いゴミ捨て場の片隅に、彼女はそれを見つけた。

 ――少女だった。

 雨が降っていた――春を迎えていない雨は冷たく、少女の身を濡らしていた。
 身にまとう衣服が濡れそぼり、少女の豊かとはいえない肢体を浮かび上がらせていた。

 上等な衣服だとひと目で知れた――それだけに、少女は哀れに見えた。

 だが、何よりも彼女が惹かれたのは、少女の眼だ。
 小さなアーモンド型の相貌は、諦めを知らなかった。

 小さな身体を寒さに震わせながら、手足を縮こまらせて、それでも少女は諦めていなかった。

 少女の意思――何かに向けられた闘争心とでも呼ぶべきもの。

 彼女の身に刻まれた経験が、それを肌に感じ取っていた。

 なんて、愛しい――そう、感じた。救いたいと思った。

 独善的な考えではない――簡潔にそれは母性と呼ぶべきものだからだ。
 親が子を救おうと思う心は、偽善ではない。

「……ねぇ、あなた……私の家に、来ない?」

 気づけば彼女は少女に傘をかざし、そう聞いていた。

 少女の視線が突き刺さる――警戒と怯えの入り混じった眼差し。

 それを、正面から受け止めた。

 時間が経った――数十秒か、数分か、数十分か。

 時間が必要だった。

 室温におかれた氷が溶けだすように、少女の心が溶けるのを待った。
 自分の存在が少女を冷たい氷から救い出すのだと、直感があった。
 
 彼女は微笑を絶やさない――そう、教わった。

 ――かつて、この少女と同じ眼差しをしていたころに。

「うー……!!」

 やがて、気づけば雨も止んだころ。

 少女の表情が和らぎ、年相応の幼さを浮かべて、そのまなじりに涙が浮かんだ。

 その身体を抱きかかえて、懐かしの我が家へと彼女は歩き出す。
 
 まずは、お風呂ねぇ♪――心のうちで、これからのことを考えながら。

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02080013 Day32 -潰想-

   -ⅰ-
   
 身に迫る気配――さりとて、敵意もなし。
 感じられるのは倦怠感と、綯い交ぜになった使命感。意図不明な存在感。
 
「はは……本当に来やがったよ、全く欲の強い」
 
 声は頭上からした。
 
 姿を現した気配の主――絶壁の崖に腰掛けた、ぼさぼさ黒髪の中年男。
 
 目元を隠すサングラス、合間から覗く細目、何よりも目立つ極彩色のアロハシャツ、
 黒いジーンズの足元はラフなビーチサンダル。
 
 口元に浮かべたニヒルな笑みが、倦怠感をさらに倍増――日向に寝そべる雄ライオンの風情。
 
 その背後に隠れ見える絶大な力――何かしら、焦げ付いた臭い。
 
 よっこらせ――腰に手をあてて立ち上がる、伸びをする。
 
「いよッ! 太古の記憶が眠るこの地にようこそ」
 
 軽薄な挨拶――へらへらと笑いながら頭をかく。
 
 それから、足元を確認し、跳んだ――かなりの高さを飛び降りて、着地。
 バランスを崩すが、両の手を振り回してどうにか持ちこたえた。
 
「ととっ……ふぅわぁ危ねぇ危ねぇ……、もう歳かねぇ。
 ……あーっと、俺はイガラシっつー……まぁ下っ端だな、うん」
 
 聞いてもいない自己紹介を始めるのは、男なりに職務に忠実な証左か。
 下っ端という響きが気に入ったか、しししと笑みを漏らしながら不揃いの顎髭をざりざりと触る。
 
「訳あってここの宝玉ってのを守ってんのよ。あぁ、宝玉ってのはえぇっとー……」

 手のひらをひらひらと振るい、言葉を続け、その手を崖に触れさせた。
 
 赤い光とともにその指先が、ずぶりと崖の中へと侵入する――溶け入っているようにも見える。
 
 何事もなかったように引き抜かれた指先に、鈍い光――深く輝く鮮烈な臙脂色。
 
 石の放つ熱気が、恭平の頬まで届いた。
 
「……うん、これね」
 
 炎熱を放つ石を指先に摘み、軽々しく放ってみせる。宙で再び手におさめる。
 
 ころころと転がして、手のひらがなんともないことをアピール。
 
「なんか熱そーだけどぜーんぜん……触ってみる?」
 
 にっこりと笑顔――石を恭平へと差し出し、その反応も得られぬまま即座に引っ込めた。
 
 呆れ顔の恭平――意に介さない男のマイペース。

「なーんてなっ! 俺はこれ守ってんだよ、渡せねぇよぉ。
 まぁでもそちらさんはこれを集めるとー……って噂でやってきたんだろ? 知ってるぜ?」

 見え隠れする何者かの意思がここでも露となった。
 
 宝玉を守る者たち――それは、何故? この男は下っ端といった、ならばそれを指示したものがいる?
 
 気づけば男は、ひょひょいと岩山を登ろうとしていた。
 途中で、恭平が後に続いてないことに気づき振り返る。

「こっち広いんでこっち来なッ! 俺を負かしたら宝玉をやるよ」
 
 手を大げさに振って、こっちに来いと表現――大人しく従い、後を追う。
 
 その途中で、息を荒らげる男を、恭平はさっくりと追い越した。
 
 岩山を登りきると円状の開けた土地がある――確かにここならば存分に動ける。
 
 少し遅れて登りきった男――イガラシは、息を整えると準備運動を開始した。
 
 「どうやらもう宝玉を手にしているようだしなぁ……」
 
 背を伸ばして気持ちよさそうにしながら、恭平の荷袋に光る青い宝玉を目ざとく見つけ出す。
 
 宝玉同士の共鳴――水の宝玉が放つ青がいつも以上に輝いている。
 
 火と水の関係――相反する属性同士。宝玉も互いを牽制しあっているのかもしれない。
 
「ちょっくら気合入れてやるかねっ!」
 
 たっぷりと身体をほぐした男が、気合を入れるように間延びした声を張り上げた。
 
 びりびりと大気が振動――同時、男を描くように炎柱が大地を裂いて出現。
 
 宝玉とは違い、この炎はまぎれもなく岩を溶かし、激しい炎熱を放っている。
 
「……ずいぶん、嘗めた炎だな」

 傭兵の眼差し――短剣を抜き放ちながら、奥歯をぎりりと噛み締める。
 
 飄々とした黒髪の男――その、いやらしいともとれる笑顔に、かつての記憶が蘇りつつあった。
 
 ――忌まわしい傭兵たちの記憶。

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02080011 Day31 -童心-

   -ⅰ-

 目覚めは、激痛をともなった。
 
 森の奥深く、横たわる牙狼の亡骸――その内に抱かれた男、孤独な傭兵。
 
 憔悴した頬には二条傷――臆病なうさぎが隠した牙、鳴尾恭平。
 
 安らぎではない眠りから帰還した男は、憔悴しきっていた。
 
 彼を死の半歩前まで追い詰めた強敵――物言わぬ亡骸たる密林の野獣。
 
 牙もつ狼が残したもの――雑菌による発熱。
 
 死へと半歩まで踏み込んでいた恭平を、高熱はさらなる苦境へと追いやった。
 
 朦朧とする意識、視界はぼやけ、指先は麻痺した。
 
 傭兵の選択――早急なる睡眠。
 
 生存に一縷の望みと、闘争の意志を強く秘めて、恭平は牙狼の亡骸に寄り添い眠りについた。
 
 それが昨晩――傭兵は朝日を再び目にした。
 
 生き延びたのだ。
 
 病魔は最も恐ろしい敵だった。
 
 直接的な脅威は、取り除くこともできる。敵は、打倒すればいい。罠ならば、取り除けばいい。
 
 いかに屈強な傭兵であろうと、歴戦の戦士であろうと、極小の細菌を切り刻むことはできない。
 
 ここが都市ならば、有効な処方もあるかもしれない。
 
 医学は進歩している。
 
 しかし、それも限られた環境にあってのことだ。
 
 鬱蒼とした密林――ここは、人間の土地ではない。
 
 守られた環境を一歩踏み出せば、人も数ある獣のひとつに過ぎないのである。
 
 獣は自然界のルールに逆らうことはできない――すなわち、食うか、食われるか。
 
 頼りとなるのは、己の力だけ――眠りの狭間で繰りひろげられたのは、恭平と病との死闘である。
 
「……くっ」

 朝日が、眼に差し込んで思わず顔を背けた。
 
 発熱の影響か、いつも以上に光がまばゆく感じられ、直視に耐えなかったのだ。

 牙狼の毛皮にもたれかかるようにして、光を避ける。

 すっかり体温の去った肉体だが、恭平自身の熱が移り、よい防寒具と化していた。

 恭平が病との戦いに勝利した理由のひとつ――病をもたらした牙狼が残した温もり。

 季節は冬に差し掛かって久しい。

 吐く息も白くなるほどにこの森も寒い。
 
 その中にあって恭平が凍えずにすんだのは、牙狼の巨体が風防となってくれたからだ。

「……」

 呼吸を整えて、じっくりと光に目を慣らす。

 白んで見えた世界が、次第に色を取り戻し、いつもの風景が恭平の前に戻ってきた。

 むしろ、以前よりもよく見えるぐらいだ――視神経が刺激されているのかもしれない。

「……強敵だった」

 立ち上がり、恭平は倒れふした戦士にわずかながら黙祷をささげた。

 勝負を分けたのは、最後の一撃。

 牙狼の強力な歯牙が、恭平の身体をとらえていたなら、相打ちとなっていただろう。

 あの一瞬――相手の肉体に短剣を打ち込みながら、刺さった刀身を支えとして恭平は跳躍した。

 牙狼は恭平の眼前を通り抜け、そして、力尽きた。

 恭平もまた、受身も取ることができず地面に叩きつけられたが、彼は生きていた。

 そして、今も生きている。

 二つの勝利を胸の内に隠し、恭平は感傷をぬぐい捨てた。

 ただでさえ行程は遅れている。

 体力も完全には戻っておらず、万全とは言いがたいが先を急がなければならない。

「……急がなくては、な」

 ふらふらと歩きながら、恭平は自分の荷物を探した。

 近くの草むらに倒れているそれを発見し、肩に担いで牙狼の遺体まで戻る。

「……お前に、感謝する」

 そして、短剣を抜くと、恭平は静かに作業を開始した。

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12281952 Day30 -世界-

イベント星降る夜に――色々と手違いで、仮更新から遅れて本更新に。

絵を描いてくださった方には申し訳ないこととなってしまいました…。

偽りの島、人知れぬクリスマスの風景として、使わせていただきます。

以下、日記等。

贈り物:証明者なきドッグタグ

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