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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :04/19/10:43

06152239 Day43 -神風-

途中です。

   -ⅰ-

「ついてこれない度胸というものを教えてやる……」
 眼下の傭兵を見下ろして、エリザは宣告した。彼女こそは空の覇者――風の宝玉を
守る者。自由自在――風の力を身にまとい、空を翔け、敵を屠る。
 タマもちの傭兵――感じられる力は二つ。水と火の守護者は敗れたらしい。
 ――私はどうだ? このエリザを、破れるか?
 鼻で笑う――不遜な傭兵に、不可能という言葉を教えてやる。
「――消え去れ」
 冷徹にして残忍――このエリザは甘くない。
 上空からの突撃滑空――ツインテールを風になびかせ疾風怒濤。槍を構えた前傾姿
勢――ランサーの本分、戦列を切り開き、突破する屈指の突貫力。
 大気を切り裂いて、加速。狙うは傭兵の心の臓――勝負は一撃で決める。
「……」
 傭兵――ワイヤーを一閃。手近な岩に楔を撃ちこみ、空中姿勢を制御。迫り来るエ
リザの槍を見据え、寸前で体をひねる。紙一重の見切り。
「無駄な足掻きだッ!」
 狙いを外されたエリザ――激突する寸前で速度を殺し、大地にひらりと舞い降りる。
即座に地面を蹴り上げて方向転換――宙へと舞い戻り、再び突撃する。
「止められるものなら止めてみるがいいッ!!」
 吼えて飛翔――傭兵は空中で自在に動くことはできない。
 エリザが迫る――傭兵の表情に焦りの色はない。突きこまれた槍を、素手で打ち払
う。穂先が流れ、エリザ自身も反転――その勢いのままに放たれる蹴り。傭兵――逆
腕でブロック。その腕に重たい痺れ――風騎士の見た目に反したその強力。
「それで私を止めたつもりかぁぁッ!!」
 唸りをあげて石突が跳ね上がる。傭兵が手の痺れに気をとられた一瞬、腋の下へ突
きあげられる――腋を締めて、挟み受ける。
 傭兵に激痛――勢いを止めきれず、あばらを数本打ち砕かれた。
「ぐ……餞別だ」
 苦痛に耐え、脂汗を額に滲ませる傭兵――口の端に薄い笑み。
 槍を固定され、動きの止まった女騎士――怪訝な表情を浮かべる。
「……たっぷり、味わえ」
 傭兵は空いた手で白布の包みを取り出し、女騎士へと投擲した。
 空中で止め紐がほどけ、白い粉が宙を舞う。
 傭兵のオリジナルブレンド――幻覚作用のある数種のキノコ、薬草を乾燥させた粉
末の混合物。かつて、一個小隊を混乱の坩堝に落としいれ、同士討ちに追い込んだお
墨付きの“やばい”品。
「うおッ?!」
 広がる白塵にエリザが包まれる――傭兵は槍を解放し、地に墜ちる。
 地面を転がって衝撃を吸収――深く息をして、呼吸を整える。一呼吸するたびに、
鈍い痛みが繰り返す。先日の戦いの傷も癒えきってはいない。可能な限り痛みを意識
の外に押しやり、戦闘に集中する。
 ものの数秒で立ち上がり、上空を見上げる――白塵が晴れた先に、風騎士の姿。
「――来る」
 同時――血走った眼差しのエリザが、兆速で飛来した。
 傭兵――横転して避けざまに蹴りの返礼――槍の柄で受けられた反動で後転――連
続して後退する。高速で突き出された穂先が、大地にいくつもの穴を穿つ。
「死んでしまえぇぇッ!!」
 大振りの一撃――紙一重でかわし、傭兵はふところへと飛び込んでいく。短剣を引
き抜き、二撃、三撃。重厚な鎧でほとんどを防がれたが、隙間を狙って繰り出された
一撃がエリザの肘関節を刺し貫く。
「く、くそ……」
 痛みからか、エリザの眼差しに冷静さが戻った。力の入らない腕をかばい、傭兵から距離をとる。そこに慢心や油断はない――生粋の戦士の眼差し。
 ――この男は、できる。
 最初にあった傭兵に対する侮りは、もうそこにはない。
「ふん……もう少し、効くかと思ったんだがな……」
 戦闘中に生じた空隙――あばらを押さえて、傭兵は苦笑した。
 肌で感じる――ここまでは前哨戦にすぎない。
「……いくぞ」
 ここから先、互いに全力――どちらも無事では済むまい。
 敵のことを想い、傭兵は電光石火の動きで大地を蹴った。

 ――完膚なきまでに叩きのめす。
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