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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :05/10/20:43

02080013 Day32 -潰想-

   -ⅰ-
   
 身に迫る気配――さりとて、敵意もなし。
 感じられるのは倦怠感と、綯い交ぜになった使命感。意図不明な存在感。
 
「はは……本当に来やがったよ、全く欲の強い」
 
 声は頭上からした。
 
 姿を現した気配の主――絶壁の崖に腰掛けた、ぼさぼさ黒髪の中年男。
 
 目元を隠すサングラス、合間から覗く細目、何よりも目立つ極彩色のアロハシャツ、
 黒いジーンズの足元はラフなビーチサンダル。
 
 口元に浮かべたニヒルな笑みが、倦怠感をさらに倍増――日向に寝そべる雄ライオンの風情。
 
 その背後に隠れ見える絶大な力――何かしら、焦げ付いた臭い。
 
 よっこらせ――腰に手をあてて立ち上がる、伸びをする。
 
「いよッ! 太古の記憶が眠るこの地にようこそ」
 
 軽薄な挨拶――へらへらと笑いながら頭をかく。
 
 それから、足元を確認し、跳んだ――かなりの高さを飛び降りて、着地。
 バランスを崩すが、両の手を振り回してどうにか持ちこたえた。
 
「ととっ……ふぅわぁ危ねぇ危ねぇ……、もう歳かねぇ。
 ……あーっと、俺はイガラシっつー……まぁ下っ端だな、うん」
 
 聞いてもいない自己紹介を始めるのは、男なりに職務に忠実な証左か。
 下っ端という響きが気に入ったか、しししと笑みを漏らしながら不揃いの顎髭をざりざりと触る。
 
「訳あってここの宝玉ってのを守ってんのよ。あぁ、宝玉ってのはえぇっとー……」

 手のひらをひらひらと振るい、言葉を続け、その手を崖に触れさせた。
 
 赤い光とともにその指先が、ずぶりと崖の中へと侵入する――溶け入っているようにも見える。
 
 何事もなかったように引き抜かれた指先に、鈍い光――深く輝く鮮烈な臙脂色。
 
 石の放つ熱気が、恭平の頬まで届いた。
 
「……うん、これね」
 
 炎熱を放つ石を指先に摘み、軽々しく放ってみせる。宙で再び手におさめる。
 
 ころころと転がして、手のひらがなんともないことをアピール。
 
「なんか熱そーだけどぜーんぜん……触ってみる?」
 
 にっこりと笑顔――石を恭平へと差し出し、その反応も得られぬまま即座に引っ込めた。
 
 呆れ顔の恭平――意に介さない男のマイペース。

「なーんてなっ! 俺はこれ守ってんだよ、渡せねぇよぉ。
 まぁでもそちらさんはこれを集めるとー……って噂でやってきたんだろ? 知ってるぜ?」

 見え隠れする何者かの意思がここでも露となった。
 
 宝玉を守る者たち――それは、何故? この男は下っ端といった、ならばそれを指示したものがいる?
 
 気づけば男は、ひょひょいと岩山を登ろうとしていた。
 途中で、恭平が後に続いてないことに気づき振り返る。

「こっち広いんでこっち来なッ! 俺を負かしたら宝玉をやるよ」
 
 手を大げさに振って、こっちに来いと表現――大人しく従い、後を追う。
 
 その途中で、息を荒らげる男を、恭平はさっくりと追い越した。
 
 岩山を登りきると円状の開けた土地がある――確かにここならば存分に動ける。
 
 少し遅れて登りきった男――イガラシは、息を整えると準備運動を開始した。
 
 「どうやらもう宝玉を手にしているようだしなぁ……」
 
 背を伸ばして気持ちよさそうにしながら、恭平の荷袋に光る青い宝玉を目ざとく見つけ出す。
 
 宝玉同士の共鳴――水の宝玉が放つ青がいつも以上に輝いている。
 
 火と水の関係――相反する属性同士。宝玉も互いを牽制しあっているのかもしれない。
 
「ちょっくら気合入れてやるかねっ!」
 
 たっぷりと身体をほぐした男が、気合を入れるように間延びした声を張り上げた。
 
 びりびりと大気が振動――同時、男を描くように炎柱が大地を裂いて出現。
 
 宝玉とは違い、この炎はまぎれもなく岩を溶かし、激しい炎熱を放っている。
 
「……ずいぶん、嘗めた炎だな」

 傭兵の眼差し――短剣を抜き放ちながら、奥歯をぎりりと噛み締める。
 
 飄々とした黒髪の男――その、いやらしいともとれる笑顔に、かつての記憶が蘇りつつあった。
 
 ――忌まわしい傭兵たちの記憶。
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02080011 Day31 -童心-

   -ⅰ-

 目覚めは、激痛をともなった。
 
 森の奥深く、横たわる牙狼の亡骸――その内に抱かれた男、孤独な傭兵。
 
 憔悴した頬には二条傷――臆病なうさぎが隠した牙、鳴尾恭平。
 
 安らぎではない眠りから帰還した男は、憔悴しきっていた。
 
 彼を死の半歩前まで追い詰めた強敵――物言わぬ亡骸たる密林の野獣。
 
 牙もつ狼が残したもの――雑菌による発熱。
 
 死へと半歩まで踏み込んでいた恭平を、高熱はさらなる苦境へと追いやった。
 
 朦朧とする意識、視界はぼやけ、指先は麻痺した。
 
 傭兵の選択――早急なる睡眠。
 
 生存に一縷の望みと、闘争の意志を強く秘めて、恭平は牙狼の亡骸に寄り添い眠りについた。
 
 それが昨晩――傭兵は朝日を再び目にした。
 
 生き延びたのだ。
 
 病魔は最も恐ろしい敵だった。
 
 直接的な脅威は、取り除くこともできる。敵は、打倒すればいい。罠ならば、取り除けばいい。
 
 いかに屈強な傭兵であろうと、歴戦の戦士であろうと、極小の細菌を切り刻むことはできない。
 
 ここが都市ならば、有効な処方もあるかもしれない。
 
 医学は進歩している。
 
 しかし、それも限られた環境にあってのことだ。
 
 鬱蒼とした密林――ここは、人間の土地ではない。
 
 守られた環境を一歩踏み出せば、人も数ある獣のひとつに過ぎないのである。
 
 獣は自然界のルールに逆らうことはできない――すなわち、食うか、食われるか。
 
 頼りとなるのは、己の力だけ――眠りの狭間で繰りひろげられたのは、恭平と病との死闘である。
 
「……くっ」

 朝日が、眼に差し込んで思わず顔を背けた。
 
 発熱の影響か、いつも以上に光がまばゆく感じられ、直視に耐えなかったのだ。

 牙狼の毛皮にもたれかかるようにして、光を避ける。

 すっかり体温の去った肉体だが、恭平自身の熱が移り、よい防寒具と化していた。

 恭平が病との戦いに勝利した理由のひとつ――病をもたらした牙狼が残した温もり。

 季節は冬に差し掛かって久しい。

 吐く息も白くなるほどにこの森も寒い。
 
 その中にあって恭平が凍えずにすんだのは、牙狼の巨体が風防となってくれたからだ。

「……」

 呼吸を整えて、じっくりと光に目を慣らす。

 白んで見えた世界が、次第に色を取り戻し、いつもの風景が恭平の前に戻ってきた。

 むしろ、以前よりもよく見えるぐらいだ――視神経が刺激されているのかもしれない。

「……強敵だった」

 立ち上がり、恭平は倒れふした戦士にわずかながら黙祷をささげた。

 勝負を分けたのは、最後の一撃。

 牙狼の強力な歯牙が、恭平の身体をとらえていたなら、相打ちとなっていただろう。

 あの一瞬――相手の肉体に短剣を打ち込みながら、刺さった刀身を支えとして恭平は跳躍した。

 牙狼は恭平の眼前を通り抜け、そして、力尽きた。

 恭平もまた、受身も取ることができず地面に叩きつけられたが、彼は生きていた。

 そして、今も生きている。

 二つの勝利を胸の内に隠し、恭平は感傷をぬぐい捨てた。

 ただでさえ行程は遅れている。

 体力も完全には戻っておらず、万全とは言いがたいが先を急がなければならない。

「……急がなくては、な」

 ふらふらと歩きながら、恭平は自分の荷物を探した。

 近くの草むらに倒れているそれを発見し、肩に担いで牙狼の遺体まで戻る。

「……お前に、感謝する」

 そして、短剣を抜くと、恭平は静かに作業を開始した。

つづきはこちら

12281952 Day30 -世界-

イベント星降る夜に――色々と手違いで、仮更新から遅れて本更新に。

絵を描いてくださった方には申し訳ないこととなってしまいました…。

偽りの島、人知れぬクリスマスの風景として、使わせていただきます。

以下、日記等。

贈り物:証明者なきドッグタグ

つづきはこちら

12172317 ありがとうございました(締め切り)

クイズです、クイズです――。

因幡の白兎が皮をはがれたのは何故?

A.人生を舐めていたから

B.ワニを激怒させたから

C.傭兵に喰われた

さあ、どれでしょう――?

美味しかった

12132247 Day29 -接点-

   -ⅰ-

 朝も、早く。朝もやの中を歩く――澱みないステップ――傭兵の歩き方。
 自身を誇示する騎士とも、整列乱れぬ兵士とも異なる。自分を殺した、歩法。

 カメレオンの如き擬態――内に死神を眠らせて、早朝の空気に紛れ込む。

 ポイズン・ラビット――臆病な捕食者、鳴尾恭平。

 静かな呼吸を繰り返す口元から、白い息が漏れた。

 偽島の漁師たちと、彼らから海幸を買いあさる商人たち――同様に早起きな。
 雑多な生の息づきに溢れた港市に、恭平の姿はあった。

 屈強な漁師たちのうちにあってさえも頭ひとつ高い。
 長い遺跡生活で伸びた髪を無造作に束ね、モスグリーンのジャケットを羽織っている。

 ある程度、温度の保たれた遺跡のうちとは違い、冷える。
 偽りの島は南方にあるとはいえ、肌寒いで済ますにはいささか厳しい季節であった。

 恭平の頬――二条の、野獣の牙にも似た傷跡。
 その疼き――あてられた視線。殺気でもない、敵意でもない、純粋な強さに反応。

 雑踏の果て、公園の入口、そこだけぽっかりと――人気のない空間。

 残された空隙を突くようにして、女傭兵は屹立していた。
 自身を束縛するように、完全武装――鮮烈な静けさをたたえた、顔見知り。

 類稀な存在感。しかし、誰も彼女に注意を払わない、払えない。

 ゆえに、サイレント――フォーマルハウト・S・レギオン。

 山猫のような眼がハッと見開かれ、すぐさま鷹のように鋭く細められた――傭兵の気付きを察知。
 潮風揺らすアイスブルーの髪を押さえて、フォウトは軽く会釈する。

「……あいつは」

 恭平の呟き――雑踏に掻き消されるほどに、ささやかな。

 巨体を滑らせるように移動――人混みの中にあって、誰に触れることもない。
 
 傭兵と女傭兵――潮騒を背にした臨海公園で相対。

 視線が交錯する――挨拶はない。

 どちらからともなく、並んで歩き出した。

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