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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :04/28/03:56

05101510 Day35 -魔女-


   -ⅰ-

 ふわりふわり、足場の悪い砂地を、軽やかな足取りで乙女は歩く。

 さらさらと風が吹くだけで流れる粒の細やかな砂の上。

 どのような技術によるものか、足跡ひとつ残らない。

 目指すのは遥か遠方に感じるとても儚げな気配――乙女を呼ぶ存在。

 それが、どのようなものなのか、想像のうちに思い描いてみる。

「ふふ、素敵な殿方だと良いのだけどぉ♪」

 想像は自由だ――乙女の微笑に合わせて、薄桃色の日傘がふりふりと揺れた。

 いまとなっては懐かしい遺跡の擬似太陽が、さんさんと乙女を照らしだしている。

 夢の中に目覚めてからここへ至るまでに、乙女の感覚では一日が過ぎていた。

 これほどまでに、長い夢を見た経験はない。

 不自然な夢の世界――目覚めるには、それと出会うほかはない。

「……何を、果たせというのかしら?」

 自然のうちに、乙女は理解している。

 何かを果たさなければ、けして、この夢が醒めることはないのだと。

 なぜ、乙女が選ばれたかは定かではない。

 偽りの島――遥か南方に存在するという、宝玉の眠る島。

 かつて、乙女自身が時を過ごした。

 そんな乙女が、この地を離れて、もう、三年が経過している。

 望んでのことではないが、最終的に離れることを決意したのは乙女に他ならない。

 強制的な退去までに、時間は残されていたが、乙女は一足早く旅立ったのだ。

 誰にも、最後の別れを告げることなく――

 とても、不義理なことをしてしまったと思う。

 いち早く旅立ちたかった――それは、乙女自身のエゴでしかない。

 しかし、その決意を乙女に与えてくれたのは、乙女を支えてくれた人々。

 偽りの島の冒険で、出会った人々の存在に他ならない。

――寂しさを教えてくれた彼女が、残していった孤独。

 それが、乙女をこの島へと導いた。

――それを癒してくれたあの子たち……。

 脳裏に浮かぶ、乙女サロンの賑やかな風景。

 そこに足を踏み入れたことのない不器用な男と、幼い少女の姿も思い浮かべられる。

 彼女たちと過ごした日々が、乙女に過去と向き合う勇気を与えてくれた。

 それから、三年――乙女は世界の紛争地帯を歩いて回った。

 自身がもたらした結末と向き合い――全てを、受け止めた。

――お墓参りも、何年ぶりだったかしら。

 それはきっと、初めてのことだったかもしれない。

 三年、短い期間ではない――だが、全てを回るのに、三年を要した。

 傷も、新たに増えた――それほどの、旅だった。

「……そして、あの子と出会った」

 真に目覚めれば、その少女は、乙女の腕の中で寝息をたてていることだろう。

 始まりの島――いつしか、乙女はこの島をそう呼ぶようになっていた。

――血と殺戮に彩られた戦いの日々
 
――彼女と暮らしたスリル溢れる生活
 
――その果てに手に入れた、第三の人生

 その日から、乙女は探し続けていた。

 始まりの地を。

 そして、乙女にとって、終わりとなるであろうこの地を。

「探しても見つからないこの島が、夢の中で見つかるなんて♪」

 一度離れた島への道は、思い出すこともできない。

 それが、招待状に記されたルール。

 望みを手にするか――全てを失うか。

 さもなければ、島を離れることはできないのだ。

 不完全な状態で離島したためか、その全てが失われたわけではなかったが。

 かといって、たどり着くことは容易でもなかった。

 その明確な情報を手にしたのは、昨夜、眠りに就く前のことだ。

 古びた宿の一室――簡素なベッドの枕元。

 かつて見たものと同じ手紙が、そこに落ちていた。

 偽りの島へと冒険者を誘う、何者かからの招待状。

 運命の片道切符を、乙女たちは手に入れたのだ。

「その直後に、この夢――できすぎ、というものねぇ?」

 自問自答――因果的なものを感じずにはいられない。

 探しても探しても見つからなかったものが、こうも簡単に見つかったのだ。

 乙女の勘は、その背景に何かを感じとる。

「あら――」

 もの思いに耽りながらも、足を進める乙女の前方に、何者かが立っていた。
 美しい白砂の砂漠にあって、それよりもなお白い人影。

 まるで、ウェディングドレスのような衣装を身にまとい、眠るように目蓋を閉じている。

 近づくと、とても美しい女性だと知れた。

「まぁ……♪」

 その端正な横顔に、思わず嘆息する。

――物語の中の眠れる森のお姫様みたいな方ねぇ♪

 ドキドキと高鳴る胸――それは、乙女回路の超反応。

 乙女は足を止めて、女性に向かってにこやかに微笑みかけた。

 眠っているのか、起きているのか。

 にこにこしながら、じっと眠り姫の動向をうかがう。

「――あなた」

 乙女より先に、眠り姫の唇が涼やかな声を紡いだ。

「……お料理は、得意かしら?」

 女性の問いかけ――乙女の瞳がキラキラと輝く。

 白砂の稜線が描き出す美しい風景の中。

 乙女は、眠れる茨の魔女と、出会った。
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つづきはこちら

05101509 Day34 -乙女-

   -ⅰ-

 ――それは、天啓だった。

 三年ぶりに戻った街――かつて暮らした住まい。
 その入り口に程近いゴミ捨て場の片隅に、彼女はそれを見つけた。

 ――少女だった。

 雨が降っていた――春を迎えていない雨は冷たく、少女の身を濡らしていた。
 身にまとう衣服が濡れそぼり、少女の豊かとはいえない肢体を浮かび上がらせていた。

 上等な衣服だとひと目で知れた――それだけに、少女は哀れに見えた。

 だが、何よりも彼女が惹かれたのは、少女の眼だ。
 小さなアーモンド型の相貌は、諦めを知らなかった。

 小さな身体を寒さに震わせながら、手足を縮こまらせて、それでも少女は諦めていなかった。

 少女の意思――何かに向けられた闘争心とでも呼ぶべきもの。

 彼女の身に刻まれた経験が、それを肌に感じ取っていた。

 なんて、愛しい――そう、感じた。救いたいと思った。

 独善的な考えではない――簡潔にそれは母性と呼ぶべきものだからだ。
 親が子を救おうと思う心は、偽善ではない。

「……ねぇ、あなた……私の家に、来ない?」

 気づけば彼女は少女に傘をかざし、そう聞いていた。

 少女の視線が突き刺さる――警戒と怯えの入り混じった眼差し。

 それを、正面から受け止めた。

 時間が経った――数十秒か、数分か、数十分か。

 時間が必要だった。

 室温におかれた氷が溶けだすように、少女の心が溶けるのを待った。
 自分の存在が少女を冷たい氷から救い出すのだと、直感があった。
 
 彼女は微笑を絶やさない――そう、教わった。

 ――かつて、この少女と同じ眼差しをしていたころに。

「うー……!!」

 やがて、気づけば雨も止んだころ。

 少女の表情が和らぎ、年相応の幼さを浮かべて、そのまなじりに涙が浮かんだ。

 その身体を抱きかかえて、懐かしの我が家へと彼女は歩き出す。
 
 まずは、お風呂ねぇ♪――心のうちで、これからのことを考えながら。

つづきはこちら

04152329 再開は5月から

月の半分が出張です。

出張と新居への引越しと重なって身動きが取れません。

せっかく再開したのに……。

料理技周りの情報を集めなくては……。

いまホットな技は、バッファローウィングです。

係数はHP回復=SP×0.8/SP回復=HP×0.1

消費SPが100なのでHP1万あれば無限に撃てる可能性です。

速度重視の戦いは、長期戦こそが醍醐味。

血反吐を吐きながらも最後の勝利を掴むべく戦って行きたいと思います。

反撃と棘棘だけは勘弁ねぇ♪

やるやると言ってなかなかできていませんが、5月以降に何か形にしたいと思います。

では。

02090247 Mercenary across the deadline.

――お茶目な同業者に送る。


   -ⅰ-
   
 響きわたる汽笛に、澱んだ空気がピリピリと震える。
 偽りの島にある唯一の、名前すらない小さな町。そのはずれもはずれの港内倉庫。
 貨物もそのままに、訪れる者も絶えて久しい――時が静止したかのような空間。
 つもりにつもった埃に真新しい足跡――獲物を抜き放ち、向かい合う男と女の姿。
 交差する熱っぽい視線――恋する乙女のように、揺らめく闘志を秘めている。
 歩んできた道のりの異なる二人――だが、どちらもが戦場の犬であることに変わりはなく、数え切れないほどに最低野郎となじられ生きてきた二人。
 傭兵――世界中の汚物をぬぐってまわる、最も汚れた掃除人。
 
 その、二人。
 
「性別で侮らぬこと、感謝いたします」

 女傭兵の凛々しい声――フォーマルハウト・S・レギオン
 紫の焔を宿した相貌、左右非対称に整えられた鈍色の髪、長く垂らした髪を束ねる民族風の髪留め、風にそよぎ揺れる布マフラー、しなやかな体躯を包む硬質な傭兵服、全身に取り付けられた多種多様の兵装――肉食を思わせる猫科の眼光。
 ただ一撃のために研ぎ澄まされた、脆くも鋭い硝子の刃を体現したかのような女。
 短剣を突き出して、揺ぎなく立つ様は、端正な彫刻を思わせる。
 短剣――“豊穣の狼”と銘打たれた、唯一無二の大業物。
 それは彼女の指先――そう自分自身でも思えるほどに、握りが手に馴染んでいた。
 彼女の体温がうつったのか、そのほのかな温もりは、心を落ち着かせてくれる。
(――これから、戦いが始まる)
 屈辱的な敗北から数日――心の奥底で「ゴウゴウ」と音をたてる焔は、今も燃えている。
 焔はフォウトの全身に火をつけ、彼女を何かに駆り立てようとしていた。
 それが何かは分からない――ただ、それを欲している、無我夢中に求めている。

 ――焦燥感が、身を焦がしている。
 
 しかし、今だけは、このひと時だけは落ち着いていられた。
 繰り返される静かな呼吸――戦場でだけは、いつよりも冷静沈着でいられる。

 ――そのように生きてきた。それこそが、彼女を形作っていた。
 
 だから、その時を待っている――自ずから戦いが始まる、その時を。
 
 ――そして、刃は触れ合った。

「――いざ!!」

 互いの身体が同時に動くのを知覚して、彼女は言葉を発した。
 刃と刃が打ち合い、甲高い金属音があがる――鋼が擦れ、薄闇に火花が散る。
 鼻先を掠めたグルカ刀――カミソリのような切れ味。鈍色の前髪がハラハラと散るを嘆くでもなく、フォウとは地を蹴る。全速で後退、一瞬のうちに加速した。
 直後――傭兵の逆手短剣が跳ね馬のように振り上げられ、虚しく宙を切る。その軌跡が闇の中にくっきりと浮かび上がって見える――殺気の残滓。
 短剣越しに傭兵の視線が自分を追ってきている――肌が粟立ち、全身で感じる。
 戦いが、二人の距離を限りなくゼロにする――けして、混じりあうことのない二人。
 馴れ合いではない――ここには、友情も、何もない。
 似たもの同士――惹かれあい――それだけに、憎みあう。
 
 ――ともに、命のあらんことを。
 
 急速に傭兵から距離を置きながら、フォウトはそっと天を思い、祈り――そして、それを忘れた。

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02080014 Day33 -突破-

   -ⅰ-
   
 灰色の山路を急ぐ煤まみれの男――鳴尾恭平。

 寒地仕様の野戦服、指先までを覆う銀色の手袋、首から提げたドッグタグ――煤まみれ。
 やはり煤まみれの金髪、汚れた頬に二条傷――一仕事終えた煙突掃除夫の様相。
 
 その手の内に揺れる赤い玉石――火の宝玉と呼ばれる、島の至宝。
 火の宝玉を守る番人――イガラシと名乗るやる気のない男を降し、それを手に入れてい
た。
 
 恭平―ミニドラゴンに火花の精霊という異界の住人を呼び出し、炎熱を自在に操る守護
者との苛烈を極める戦いにより、全身に火傷を負っていた。
 しかし、それも時間を経るごとに回復へと向かっている。
 
 本来ならば休息をとりたいところだったが、行程がずいぶんと遅れをとっている。
 どちみち、明日には遺跡の外へと戻る予定でもあった。
 
 遺跡を一度離れたならば、その内側で得た傷は全てたちどころに治ってしまう。
 ただ、得た経験と、得たアイテムとは消えることなく、その手の内に残っていた。
 
 外へと戻るには、新たな魔方陣を見つけなければならない。
 
 魔方陣――遺跡の内外を繋ぐ、ゲートを開くための記録装置。
 
 内から外へと抜けるのは一瞬だが、外から内へ入るためには、魔方陣へ自身の存在を刻
まなければならない。

 新しい魔法人を発見しなければ無駄足――ここまでの行程を再び繰り返すこととなって
しまう。それは、いささか面倒というものだった。

 宝玉戦からここまで、順調に進んでいた。
 道は悪路といっていい。遺跡の中ということを忘れそうな山岳地帯。
 
 溶岩の川が、眼科に流れている――ここは、活火山であるらしい。
 火の宝玉が身近にあった為か、火の気が強いらしい。
 
 本来、そういった気を感じることのできない恭平ではあったが、水と火と――二つの宝
玉の力によるものか、存在というものは感じられるようになっていた。

 しかし、精霊などがはっきりと目に映るわけではない。
 大気の揺らぎや、奇妙な気配などから、そこにいるということが伝わってくるだけであ
る。
 
 例外として、冒険者などが召還した精霊については、見ることができた。
 先の戦いでも火花の精霊は彼の眼前に現れ、可視できていたからこそ正確に断つことが
できたのだ。

 精霊の存在――刃を交えた相手、その存在に疑いの余地はない。
 
 仮説――濃度の違いは、彼ら自身の干渉力の現われ、はっきりとしていればしているほ
どに彼らがこちら側へ与える影響は大きくなる。

 ――狂った精霊や、意志持ちははっきり見えるということか……。
 
 かつて打倒した、哀しい風精霊のことを思い出す。

「……ふん」

 死者がどこにでもいるように、彼らも本来はどこにでもいる存在なのだろう。
 
 吹き出るような汗をぬぐいながら、山道を進む。
 足場が崩れれば、流れ出るマグマへとまっさかさま――しかし歩調はいつも通り。
 
 一種、幻想的な火の山を越えて、風の吹き荒れる高山へと抜け出でた。
 
 その中腹に、風の吹く洞がある。
 
 湿気をはらんだ風に、邪悪な生き物の臭い――遺跡を守る魔法生物の気配。
 
 そこが、さらなる地下へと続くルートのひとつであることは、間違いなかった。
 洞穴に入り進むと、人造的な石畳の階段が姿をあらわす
 
 一段、一段が、巨人でも歩けるほどに幅広い――それが、霞むほどの眼下にまで続いて
いる。

 その先に、二つの巨大な気配がうろついていた。
 
「……途中に、何かいるな」

 目を細めて先を窺うがその姿は見えてこない。
 
 恭平は短剣を引き抜き、いつでも動けるように身構えると、じりじりと階段を下りてい
った。