血の染み付いた手帳
しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
(11/09)
(10/18)
(07/16)
(06/15)
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11220953 | [PR] |
02080014 | Day33 -突破- |
-ⅰ-
灰色の山路を急ぐ煤まみれの男――鳴尾恭平。
寒地仕様の野戦服、指先までを覆う銀色の手袋、首から提げたドッグタグ――煤まみれ。
やはり煤まみれの金髪、汚れた頬に二条傷――一仕事終えた煙突掃除夫の様相。
その手の内に揺れる赤い玉石――火の宝玉と呼ばれる、島の至宝。
火の宝玉を守る番人――イガラシと名乗るやる気のない男を降し、それを手に入れてい
た。
恭平―ミニドラゴンに火花の精霊という異界の住人を呼び出し、炎熱を自在に操る守護
者との苛烈を極める戦いにより、全身に火傷を負っていた。
しかし、それも時間を経るごとに回復へと向かっている。
本来ならば休息をとりたいところだったが、行程がずいぶんと遅れをとっている。
どちみち、明日には遺跡の外へと戻る予定でもあった。
遺跡を一度離れたならば、その内側で得た傷は全てたちどころに治ってしまう。
ただ、得た経験と、得たアイテムとは消えることなく、その手の内に残っていた。
外へと戻るには、新たな魔方陣を見つけなければならない。
魔方陣――遺跡の内外を繋ぐ、ゲートを開くための記録装置。
内から外へと抜けるのは一瞬だが、外から内へ入るためには、魔方陣へ自身の存在を刻
まなければならない。
新しい魔法人を発見しなければ無駄足――ここまでの行程を再び繰り返すこととなって
しまう。それは、いささか面倒というものだった。
宝玉戦からここまで、順調に進んでいた。
道は悪路といっていい。遺跡の中ということを忘れそうな山岳地帯。
溶岩の川が、眼科に流れている――ここは、活火山であるらしい。
火の宝玉が身近にあった為か、火の気が強いらしい。
本来、そういった気を感じることのできない恭平ではあったが、水と火と――二つの宝
玉の力によるものか、存在というものは感じられるようになっていた。
しかし、精霊などがはっきりと目に映るわけではない。
大気の揺らぎや、奇妙な気配などから、そこにいるということが伝わってくるだけであ
る。
例外として、冒険者などが召還した精霊については、見ることができた。
先の戦いでも火花の精霊は彼の眼前に現れ、可視できていたからこそ正確に断つことが
できたのだ。
精霊の存在――刃を交えた相手、その存在に疑いの余地はない。
仮説――濃度の違いは、彼ら自身の干渉力の現われ、はっきりとしていればしているほ
どに彼らがこちら側へ与える影響は大きくなる。
――狂った精霊や、意志持ちははっきり見えるということか……。
かつて打倒した、哀しい風精霊のことを思い出す。
「……ふん」
死者がどこにでもいるように、彼らも本来はどこにでもいる存在なのだろう。
吹き出るような汗をぬぐいながら、山道を進む。
足場が崩れれば、流れ出るマグマへとまっさかさま――しかし歩調はいつも通り。
一種、幻想的な火の山を越えて、風の吹き荒れる高山へと抜け出でた。
その中腹に、風の吹く洞がある。
湿気をはらんだ風に、邪悪な生き物の臭い――遺跡を守る魔法生物の気配。
そこが、さらなる地下へと続くルートのひとつであることは、間違いなかった。
洞穴に入り進むと、人造的な石畳の階段が姿をあらわす
一段、一段が、巨人でも歩けるほどに幅広い――それが、霞むほどの眼下にまで続いて
いる。
その先に、二つの巨大な気配がうろついていた。
「……途中に、何かいるな」
目を細めて先を窺うがその姿は見えてこない。
恭平は短剣を引き抜き、いつでも動けるように身構えると、じりじりと階段を下りてい
った。
灰色の山路を急ぐ煤まみれの男――鳴尾恭平。
寒地仕様の野戦服、指先までを覆う銀色の手袋、首から提げたドッグタグ――煤まみれ。
やはり煤まみれの金髪、汚れた頬に二条傷――一仕事終えた煙突掃除夫の様相。
その手の内に揺れる赤い玉石――火の宝玉と呼ばれる、島の至宝。
火の宝玉を守る番人――イガラシと名乗るやる気のない男を降し、それを手に入れてい
た。
恭平―ミニドラゴンに火花の精霊という異界の住人を呼び出し、炎熱を自在に操る守護
者との苛烈を極める戦いにより、全身に火傷を負っていた。
しかし、それも時間を経るごとに回復へと向かっている。
本来ならば休息をとりたいところだったが、行程がずいぶんと遅れをとっている。
どちみち、明日には遺跡の外へと戻る予定でもあった。
遺跡を一度離れたならば、その内側で得た傷は全てたちどころに治ってしまう。
ただ、得た経験と、得たアイテムとは消えることなく、その手の内に残っていた。
外へと戻るには、新たな魔方陣を見つけなければならない。
魔方陣――遺跡の内外を繋ぐ、ゲートを開くための記録装置。
内から外へと抜けるのは一瞬だが、外から内へ入るためには、魔方陣へ自身の存在を刻
まなければならない。
新しい魔法人を発見しなければ無駄足――ここまでの行程を再び繰り返すこととなって
しまう。それは、いささか面倒というものだった。
宝玉戦からここまで、順調に進んでいた。
道は悪路といっていい。遺跡の中ということを忘れそうな山岳地帯。
溶岩の川が、眼科に流れている――ここは、活火山であるらしい。
火の宝玉が身近にあった為か、火の気が強いらしい。
本来、そういった気を感じることのできない恭平ではあったが、水と火と――二つの宝
玉の力によるものか、存在というものは感じられるようになっていた。
しかし、精霊などがはっきりと目に映るわけではない。
大気の揺らぎや、奇妙な気配などから、そこにいるということが伝わってくるだけであ
る。
例外として、冒険者などが召還した精霊については、見ることができた。
先の戦いでも火花の精霊は彼の眼前に現れ、可視できていたからこそ正確に断つことが
できたのだ。
精霊の存在――刃を交えた相手、その存在に疑いの余地はない。
仮説――濃度の違いは、彼ら自身の干渉力の現われ、はっきりとしていればしているほ
どに彼らがこちら側へ与える影響は大きくなる。
――狂った精霊や、意志持ちははっきり見えるということか……。
かつて打倒した、哀しい風精霊のことを思い出す。
「……ふん」
死者がどこにでもいるように、彼らも本来はどこにでもいる存在なのだろう。
吹き出るような汗をぬぐいながら、山道を進む。
足場が崩れれば、流れ出るマグマへとまっさかさま――しかし歩調はいつも通り。
一種、幻想的な火の山を越えて、風の吹き荒れる高山へと抜け出でた。
その中腹に、風の吹く洞がある。
湿気をはらんだ風に、邪悪な生き物の臭い――遺跡を守る魔法生物の気配。
そこが、さらなる地下へと続くルートのひとつであることは、間違いなかった。
洞穴に入り進むと、人造的な石畳の階段が姿をあらわす
一段、一段が、巨人でも歩けるほどに幅広い――それが、霞むほどの眼下にまで続いて
いる。
その先に、二つの巨大な気配がうろついていた。
「……途中に、何かいるな」
目を細めて先を窺うがその姿は見えてこない。
恭平は短剣を引き抜き、いつでも動けるように身構えると、じりじりと階段を下りてい
った。
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