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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :03/29/09:14

06120143 Day43 -ファンシーボム-

前回のクニーRさん(394)さんの、イガラシ戦を参照して、
今回のエリザ戦において、ファンシーボムを使ってみました。
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その結果

05240334 DAy?? -麦酒の泡と消えて-

フォウトさんと、イルさんと、楽しい時間を過ごしてきました。

イメージ図は此方を参照に。

美味しゅうございました、また機会がありましたら、ぜひ。


   -ⅰ-

「……」
「恭平さん」

 呼ばれて、傭兵は振り返った。

「こちらです」

 馴染みの女傭兵が、革の鞄を手に立っている。

「……とてつもない、人ごみだな。待たせた」
「もう少し、場所を詳細に説明すべきでしたね。すみません」

 休日の遺跡外――町は人々でごった返していた。
 待ち合わせ場所に指定されたオブジェも、人の群に埋もれている。

「かまわん。下調べをしなかった俺にも非があるからな」

 生真面目に謝る女傭兵に、傭兵は苦笑してみせた。
 その様子に、女傭兵がほっと息を吐く。

「人ごみは、苦手でな。……俺たちだけか?」
「いえ――あと、イルさんがいらっしゃる予定なのですが」

 傭兵の問いかけに、女傭兵が答える。
 懐中時計を開き、時刻を確認した。

「どうも、遅れているようです」

 待ち合わせの時刻は、少し過ぎている。

「イルか……獣人の貴族だったか」
「ええ、素晴らしい方ですよ」
「それで、全てか?」

 再度、確認するように傭兵が問うた。

「それが、ティカさんも来たがったのですが……」
「ティカが、か?」

 すでに夜の刻――子供が出歩く時間ではない。

「あの方は、けっこう飲まれますからね」
「そうだったな……」

 火と花と、森の宴を思い出す。
 あの子供は、大人が負けるほどに、呑んでいたような気がする。

「それで、来たがったのですが――ホマレさんと、マツリさんに止められたようです。
 私としては、少しホッとしています」
「……さすがに、街中では、な」

 遺跡の中でなら、蛇の道は蛇――細かなことを気にしない傭兵たちである。
 しかし、遺跡外のような衆目のある場所では、それがトラブルを招くこともある。

「残念ですが、今夜は我慢していただくほかはないでしょう」
「……ああ。どうやら、待ち人も来たようだ」

 会話を切り上げ、路地のひとつの示す。
 街灯に照らされて、白い毛並みの獣人が浮き上がってきた。

「……すみません。道に迷ってしまいました……」
「こちらこそ、詳細な地図を用意すべきでした」

 しきりに謝罪する犬人に、女傭兵は頭を下げる。

「揃ったのだからよしとしよう――フォウト、案内してくれ」
「そうですね……申し訳ないのですが、寄り道をしてもよろしいでしょうか?」

 女傭兵は、確認するように二人の顔を見る。

「……私は、かまいませんけれど」
「好きにしろ」

 即座に返答がある。

「申し訳ありません。珈琲豆を切らしてしまいまして」
「なに、もののついでだ。……かまわんさ」

 傭兵が追うように頷く。

「ありがとうございます。では、こちらへ」

 歩き出した女傭兵について、二人も歩き出した。

つづきはこちら

05101517 Day38 -雌雄-

   -ⅰ-

 白い空間に剣戟の音が満ちた。戦っているのは男と女だ。

 しかし、その体格に差はない。

 黄金のブロンドを豪奢に伸ばした女は、エプロンドレスを身にまとっている。
 相対する男は野戦服に身を包み、その対極的な様は冗談のような光景だった。

 だが、その戦いは正真正銘の本物であり、命を削るような一撃の応酬が続いている。

 一見、攻勢にまわっているのは、男であるように見える。

 電光石火の動きで床も天井も関係なく、両の手に握る短剣を武器に果敢に攻め入っていた。
 その実、その表情には浮かばない焦りが、彼の心に忍び寄りつつあった。

「あらあら、どうしたのゥ?」

 死角から抜き放った投擲剣を、女の短剣に弾き返された。

 狙い、タイミング、一撃の速度――全てに申し分のない一撃だった。
 遺跡の怪物――とりわけ、その低級なものであれば今の一撃で八割は仕留めている。

 それを簡単にいなされる。
 そんなことが、もう十数回も繰り返されていた。

「……ち」

 さしもの男も足を止め、女を油断なくうかがった。
 先ほどから、まるで最初から分かっているかのように攻撃を防がれている。

 初対面の相手だ。

 所見の敵を、その戦術を相手に、これほどまでに動きを合わせることは簡単ではない。

 幾度となく戦った相手ならば、それが成立することもある。
 あらゆる秘技、必殺の一撃さえも、防がれてしまうことが。

 腐れ縁とでもいうべき相手――男にとっての、とある女傭兵のように。

 相手の力量が確かであることも要求される。

 それほどに、簡単なことではないのだ。

「俺が……見た目で、侮った、ということか?」

 悩ましく自問自答する男を、誰も責めることはできまい。

 エプロンドレスの大女が、信じがたい手誰だと誰が想像できるだろうか。
 正当な技術を重んじる人間は、奇抜な相手を軽んじてしまう傾向にある。

 それを狙っての格好であれば、より女を危険視する理由にもなるだろう?

「ねェ、来ないの?」

つづきはこちら

05101514 Day37 -泡沫-

   -ⅰ-

 闇よりも暗い獣は、口惜しそうにその場を去った。

 鋭い眼差しで去っていく獣を見送り、その姿が視界の果てに消えてから、

 傭兵は荒い息をついてその場に膝を突いた。

 握力を失った両の手から、重量のあるグルカ刀がドサリと落ちる。

 全身の傷からは血が溢れだし、傭兵の足元に鉄サビ色の水溜りを作る。

 ――傭兵の肉体は、とうに限界を超えていたのだ。

 息がつまり、熱いものが喉元から競りあがってきて、

 傭兵は自分の血溜まりへと吐瀉物をぶちまけた。

 霞む視界、手探りで荷物から水を見つけ出し、どうにか蓋をあけて口につける。

 肺腑が軽く痙攣を起こしており、飲み込むことすら困難な様子であった。

 座り込んだ姿勢のまま動くこともできず、血と吐瀉物に塗れながら、

 傭兵はただ、自分の身体が癒えるのを待った。

 肉体から離れ、ただ鋭敏になった感覚は、周囲のことを傭兵に伝えてくれる。

 ここから先、歩いてひと時もかからない程の場所に、

 先ほどの獣など比べ物にならない何かの気配があった。

 それが、傭兵の目指すものなのかどうかは、分からない。

 しかし、先刻見た地図の地形を思い出してみれば、避けて通れない地点でもあった。

 傭兵が遺跡を守る側であったならば、そのような要所に罠を仕掛けるだろう。

 守りにまわった側の、初歩的な戦略といえた。

「……は、はは」

 呼吸が楽になり始め、筋肉の痙攣は絶頂を極めた。

 突っ伏すように地面に倒れこみ、無理やり体を捻って仰向けになる。

 回廊に潜む魔物がうごめいているのが、視界の隅に映った。

 彼らはあの美しくも孤独な迷宮から、永遠に外へ出ることは適わないのだ。

 風に混じる獣の臭い、冒険者の臭い――それらに気を配りながら、傭兵は歯を食いしばる。

 いま、再び襲われたなら、もう勝ち目はない。

 あの獣の気配は、すでに遠くへと霞んで消えていた。

「……少し、休むか……」

 饐えた自身の臭いに眉をひそめながら、傭兵は静かにそっと目をとじた。

 目覚めたら、歩き出すのだ――次の、戦場へと。

つづきはこちら

05101513 Day36 -協奏-

   -ⅰ-

 熱砂の砂漠を抜けると、そこは冷え冷えとた風の滞る回廊の入り口だった。

 額にかいた汗が急激に冷やされて、ぞくぞくした怖気に襲われる。

 その感覚も相まって、この回廊にはただならない気配が感じられた。

 それはこの先に待ち受ける存在が、放つ存在感によるものかもと乙女は思う。

 静かな回廊の中は、だがしかし、確かな生命の息づきに満ちていた。

 視線を闇の中に向ければ、淡い燐光を放つ精霊が飛んでいる。

 それらが眼に見えて映るのは、乙女がかつてこの島に暮らし、マナの影響を受けているからだ。

 ましてや、夢幻に捕らわれた身である乙女は、一種彼らと近しい存在となっている。

 ただし、本人がそれと知ることはない。

「……綺麗ねェ」

 闇の中に浮かんでは消える青白い輝きをうっとりと眺めやりつつ、乙女は先を急いだ。

 円筒状の回廊は折れ曲がることもせず、ただひたすらに真っ直ぐだった。

 その形状は下水を思わせるが、嫌な臭いなどはなく、無味無臭の気味悪さがあった。

 カツンカツンと乙女の足音が響くたびに、それが反響して何重にもなって返ってくる。

 よくよく意識を集中しなければ、どれが本当の足音なのかも分からない状況だった。

 気を抜けばそれに混じって、遺跡の怪物が襲い掛かってくるかもしれない。

 あくまでも、足取りは軽やかに。

 だが、周囲八方に向けられた、乙女の警戒のアンテナは尋常のものではない。

 ここは、そういう場所なのだ。

 眼を凝らせば、闇の中に回廊の壁面が浮いて見える。

 繋ぎ目すらないつるりとしたその表面に縦横無尽に走っているのは、

 他ならない怪物の爪痕であり、一見模様に見えるそれは彼らの返り血であった。

 惨劇の跡があたり一面に広がっているにもかかわらず、ここは静謐さを保っている。

 それらの殺戮さえも、無音のうちに行われたということか。

 遺跡のどれほどの深さに相当するかは分からないが、

 この階層の危険度は、上階と比べるまでもないことは明らかであった。

「嫌な風ねェ。何も、感じないわァ……」

 ときおり、円筒状の回廊内を、いままで来た道へと向かって生暖かな風が吹き抜けていく、

 のっぺりと頬を風が撫ぜていく感覚は、いかにも無機質で不快だった。

 その中には、獣の臭いのひとつも感じない。

 さきほどから見られるのはやはり、精霊や死霊の類ばかり。

 この回廊にはいってからというもの、気配こそ感じるものの、

 動物のような有機体といまだに出会ってはいなかった。

「薄気味悪いはねェ……何か、嫌な予感がするわ」

 何も起きなさ過ぎることが、懸念であり、乙女の第六感を刺激するのだ。

 悪いことが起きるような気がして、乙女は警戒を強めながらもただただ前へ進んでいた。

つづきはこちら