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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :11/15/12:57

05101517 Day38 -雌雄-

   -ⅰ-

 白い空間に剣戟の音が満ちた。戦っているのは男と女だ。

 しかし、その体格に差はない。

 黄金のブロンドを豪奢に伸ばした女は、エプロンドレスを身にまとっている。
 相対する男は野戦服に身を包み、その対極的な様は冗談のような光景だった。

 だが、その戦いは正真正銘の本物であり、命を削るような一撃の応酬が続いている。

 一見、攻勢にまわっているのは、男であるように見える。

 電光石火の動きで床も天井も関係なく、両の手に握る短剣を武器に果敢に攻め入っていた。
 その実、その表情には浮かばない焦りが、彼の心に忍び寄りつつあった。

「あらあら、どうしたのゥ?」

 死角から抜き放った投擲剣を、女の短剣に弾き返された。

 狙い、タイミング、一撃の速度――全てに申し分のない一撃だった。
 遺跡の怪物――とりわけ、その低級なものであれば今の一撃で八割は仕留めている。

 それを簡単にいなされる。
 そんなことが、もう十数回も繰り返されていた。

「……ち」

 さしもの男も足を止め、女を油断なくうかがった。
 先ほどから、まるで最初から分かっているかのように攻撃を防がれている。

 初対面の相手だ。

 所見の敵を、その戦術を相手に、これほどまでに動きを合わせることは簡単ではない。

 幾度となく戦った相手ならば、それが成立することもある。
 あらゆる秘技、必殺の一撃さえも、防がれてしまうことが。

 腐れ縁とでもいうべき相手――男にとっての、とある女傭兵のように。

 相手の力量が確かであることも要求される。

 それほどに、簡単なことではないのだ。

「俺が……見た目で、侮った、ということか?」

 悩ましく自問自答する男を、誰も責めることはできまい。

 エプロンドレスの大女が、信じがたい手誰だと誰が想像できるだろうか。
 正当な技術を重んじる人間は、奇抜な相手を軽んじてしまう傾向にある。

 それを狙っての格好であれば、より女を危険視する理由にもなるだろう?

「ねェ、来ないの?」



 先ほどまでとは一転して動かない男に向かって、女は待ちくたびれたように聞いた。
 焦れているわけではない。ただ、急に男の動きが止まったことを、疑問に思っただけだ。

 よく見れば、男の獲物と女の獲物も形状が似通っていた。
 一般にグルカ刀と呼ばれるそれは、戦闘に適した実戦的な武器だ。

 女の服装には似つかわしくないが、一体としてみたときに不思議な収まりの良さが感じられる。
 それは、男も最初から感じていたことで、女がいかにその獲物を使い込んでいるかの証明でもあった。

 やはり、侮れない相手ではあるのだ。

「……私から、攻めようかしら?」

 一歩を踏み出しながら、女は問いかける。

 その表情は不敵といっていい。モデルのような歩法で一直線に男を目指す。
 両の手に握られた短剣は無造作にぶら下がり、昼下がりに散歩する主婦のような気軽さが全身から発散されている。

 この女は地雷原を歩くときも、こうしているのではないかと思わされる。

「――余計な、お世話だ」

 自ら歩み寄る女へと、男は正面から突撃した。

 床が甲高い音をたてて砕けるほどの力で地を蹴り、瞬間的な加速で弾丸のように飛び出した。
 ものの数歩で女の懐に入り込む。

 身を縮め、下方から短剣を突き上げる。

 顎先に刃を掠めさせながら女がのけぞってそれをかわした。
 かわす動作のまま後転し、男よりさらに低い位置から蹴り足が男を狙って放たれる。

 その威力に逆らわず、足を軸にして投げられるように男は女から距離をとった。
 同時に、女の背後をとっている。無防備なその背中へ向かって、投擲剣を三本放った。

 飛来した三本の投擲剣を、女は振り向きがちに短剣で薙ぎ払う。
 力の向きを変えられた投擲剣は、そのままの勢いで床にぶつかり、あらぬ方向に滑っていった。

「後ろから狙うなんて、卑怯ねェ――それが、いいんだけど!」

 言葉を残し、女の姿が掻き消えた。
 いままでの女とは異なり、爆発的に加速したためそう錯覚したのだ。

 女が跳躍したことは、男の目にはとらえられていた。
 慣れとのギャップが、判断を鈍らせただけだ。
 一瞬の後には、女が存在する宙への迎撃体勢を整えていた。

「いっくわよぅ!」

 掛け声と同時――無数の投擲剣が雨のように降り注いだ。

 投擲剣の中でも暗殺者が好んで使用する極小のものだ。
 袖口や襟元だけでなく、女の髪の中に隠すこともできる。

 おそらくは、あの豊かなブロンドの中に仕込まれていたのだろう。

 ただ無数――数えるまでもない投擲剣を、男は散開する鋼線によって防いだ。
 本来は空中の女を狙うためのものだったが、今は身を守ることが優先だ。

 相手を捕らえるためではなく、切り刻むための網――ブレッドネット
 指先の動きで形成された即席の投網は、期待通り投擲剣をことごとく打ち落としていた。

 なかには網目をすり抜けて飛来するものもあるが、それは全て男に当たらない位置へと落ちた。

「あら、やるじゃない」

 音もなく着地を決めた女は、男の技を見て微笑んでみせる。

「私も、これは得意よ?」

 髪から抜き出されたそれは、磨き上げられたワイヤーだった。

 一面を鋭利な刃物と化してあるそれは、鞭のごとくしなり敵の肌をやすやすと切り裂く。

 扱いが難しく、下手をすれば自分が切り刻まれることとなるため、その使用者は少ない。
 男とて、師から学ばなければ好んで使うこともなかっただろう。

 武器として使わずとも、罠として仕掛けるなど仕様用途は豊富なのだ。

「……だから、どうした。――いくぞ」

 しかし、習熟すれば動きは読みづらく殺傷性も高い――理想的な武器といえた。

 ある程度の距離を置いて、二人はにらみ合う。
 神経は互いの指先から垂れ下がった銀色の煌きに向けられている。

 速度を増した鋼線は、目でとらえられるものではない。

 気づいたときには首と胴体が泣き別れとなっている。そういう武器なのだ。
 使用者の動作と、軌道の予測から読みきるしか防ぐ術はない。

「どっちが上か、決めましょうか♪」

 楽しげに女が声を上げる。
 招くように指先を動かす――垂れ下がった鋼線が命を与えられたかのように跳ね上がった。

「断る。結果は、火を見るよりも明らかだ」

 波打ち迫る鋼線を、男は自身の鋼線で迎え撃った。
 高速で鋼線同士が打ち合い火花を散らす。絡まりあい、擦れあう音を立てる。

 指の数本で引き合いながら、互いに操作を続けた。

 空中で激突し、互いのコントロールを離れた鋼線が、時折両者を傷つける。

 こうなっては動くこともできない。
 自分自身のいる空間を覗けば、安全といえる場所はなく、少しでも動けばカマイタチの洗礼を浴びることとなるだろう。

「埒が明かないな……」

 白のタンクトップをさらに血で染めながら男がぼやいた。
 女も同意見らしく、いくらか切り飛ばされた髪を払いながら、それに応じる。
 
「……そうね、互いに次の一撃に全てをかけない?
 命中させたほうが、価値ってことで……どう?」

 攻防を続けながら、女はそう提案した。

「いいだろう……のってやる」

 男がそれに応じる。

 次の瞬間、全ての鋼線が力を失って地に落ちた。
 全てを指先から切り離したのだ。

 男と女がそれぞれ新しい獲物を引き抜く――大振りな投擲剣。

 穿ち撃つもの。

「……風穴をあけてやろう」

 全身をばねのようにたわめ、男が宣告した。

 一撃は同時――最大の力を込めて撃ち出される。

 その瞬間はどちらにせよ無防備。

 その一撃が放たれ、最後に立っているのはどちらか――。

「いくぞ!」「いくわよゥ!」

 気迫のこもった一声と同時――賽は放たれた。
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