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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :11/15/14:11

12062326 Day27 -姉妹-

   -0-

 狭霧に覆われた早朝の森を、傭兵が一人歩いていた。

 水気の多い森であった。朝もやが恭平の視界を奪い、その探索を困難なものとする。
 水を多く含んだ土は柔らかく、そこから顔をのぞかせた木の根が天然のトラップと化している。

 編みこみのブーツを土に沈み込ませながら、手にした地図を頼りに足を進めている。
 赤い光点の浮き上がる不思議な地図は、この島に辿り着いた時に手渡されたものだ。

 地図を渡された者――傭兵は、冒険者であった。

 偽りの島と呼ばれる島がある。どんな世界のどのような地図にもその場所は記されていない。

 多くの冒険者が、今、この島を訪れている。

 その背景には謎の招待者から届けられた手紙が存在した。

 どのような目的で送られたものかは分からない。

 ただ、島の所在と、そこに眠るという宝玉の存在が示唆されていた。

 地図はその手紙とともに同封されていたものである。

 当初は空白だらけだった地図も今では、その大半が描き出されていた。
 たとえ自分でなくてもいい。冒険者の一人でも踏み込めば、地図にはその場所がくっきりと現れるのだ。

 そんな地図のほぼ北西に位置する箇所に、赤い光点が示す深い森があった。

 冒険者たちが水源郷と呼ぶ森である。

 そして今まさに、傭兵が歩いている森でもあった。

 広大な遺跡内の空間に、のびのびと枝葉を伸ばした木々が息づいている。
 水が豊富であるためか、どの木々も青々とした葉を茂らせて、豊かな果実をたわわに実らせていた。

 果実はよい食料となるのだろう。

 青味がかった羽をふるわせる蜻蛉や、青い羽毛を散らして飛ぶ鳥の姿が見受けられた。

 下生え草花が朝露に濡れて、朝日を受けてキラキラと輝いている。

 傍目にも、美しい森であった。生命力に満ち溢れている、と言ってもいい。

「……だが、不気味だな」

 見る者が見れば、感動に涙を流してもおかしくはない水の秘境を前に、傭兵は呟いた。

 この森は、あまりにも澄んでいた。

 ただこの世のものとは思えないほどに美しい、それだけの森であるはずがない。

 考えすぎではないか、という声もあることだろう。

 だが、それは外の世界の考え方だ。この遺跡には、通用しない。

 遺跡内の環境は多種多様である。

 それは、これまでの探索行から傭兵自身が肌身に感じ取っていたことであった。

 しかし、それを差し引いても、特異な森であるといえよう。

 鬱蒼と茂る木々、腐臭を吐き出す沼、徘徊する死者の魂、闇から冒険者を狙う遺跡の怪物――

 かつて歩んだ森のどれもが、そういった負の気配を染み付かせていた。

 それが、この森にはない。

 そう、澄み過ぎているのだ。水源郷――言い替えてみれば、この世にあらざる場所である。

「……これが、宝玉の力だと? そう、いうことか……」

 確かめるように、傭兵は言葉を口にした。

 宝玉――招待者が記した遺跡の秘法である。

 その存在すら怪しい。誰もが眉唾物と思いながらも、この遺跡が眠る島へと訪れた。
 この島が偽りの島と呼ばれるゆえんでもある。

 一部の冒険者を除いて信用されていなかった秘法。

 その、ひとつ――水をつかさどる宝玉が、この森に眠るという噂であった。

 すでに、多くの冒険者がそれを手にしていた。

 傭兵自身がそれを信じたわけではなかった。

 あくまでも、人伝の情報である。

 自分の目で確かめるまでは、容易に信じることもできはしない。

「……やはり、ここに」

 宝玉の存在を確かめるため、彼の足をこの森へと向けさせたのは、他ならない水の宝玉であった。

 かがり火の灯された幻想の森。その夜――女傭兵の腰で、それは確かに揺れていた。

 そういったものを感じる力の低い傭兵にさえも、それのもつ“力”というものが感じられたのだ。

 淡く青い光を放つ宝玉。

 漂う、水の香り。

「……なん、だ?」

 記憶のうちにある宝玉を思い描いていると、ふいに、その香りが甦った。

 いや、現に香っている。

 今まで、気付いていなかったのか、それとも、今、気付かされたのか。

 水の香は、森の奥へと傭兵を誘っている。

「あそこか――」

 目を鷹のように細めて、川上へと鋭く視線をはしらせた。

 青々とした木々の向こうに、さらにひとつ背が高い大樹が覗いている。

 どうやら、水の香りはその方角から香っているらしい。

「……誘われてやろうじゃないか」

 口の端に笑みを浮かべ、手にしていた地図を荷の中にしまいこんだ。

 地図はもう必要はない。

 岩の背を蹴って、傭兵は動きだした。

 清らかな森に漂う鬼気を嫌ってか、傭兵を拒絶するように木々がざわめいた。



   -1-

 ほどなくして、傭兵は大樹の膝元に辿り着いた。

 周辺にはなみなみと水をたたえた泉が広がり、冷たい地下水が湧き出している。

 森の中を走る全ての小川はこの泉を源としているものらしく、四方へと水は流れ出している。

 澄んだ水面に色とりどりの水花が浮いていた。

 その花弁に乗って、アオガエルがケロケロと穏やかな時を謳歌している。

 泉のほとりまで足を進めて、傭兵は歩みを止めた。

 編みこみブーツの先端が水に濡れるか濡れないかという位置で、油断なく視線を巡らせる。

 両の手はそれとなく投剣の柄に触れさせて、いつでも抜き放てるように構えた。

「……ここで、間違いないようだな」

 これ以上はないほどに濃い水の香りが、その空間には満ちていた。

 場に満ちた自ら溢れだす、水そのものの存在感。

 ここには何かがある。誰であろうと、ここを訪れた者は直感することだろう。

 そして傭兵の勘は、水のベールの向こう側に、何者かの影を捉えていた。

「……隠れていないで、でてきたらどうだ?」

 鋭い視線を大樹――正確にはその陰――へと向けて、傭兵は言い放った。

 この森の主なのであろう大樹。

 水色の果実を実らせた老木の陰に、おぼろな二人分の気配がある。

 人か、それとも、人にあらざる者か――混ざり合って判然としない、その気配。

「あら、見つかってしまったわね」「あら、見つかってしまったのね」

 クスクスと肩を震わせたらしい気配の揺らぎとともに、二つの返答があった。

 次いで、大樹の左右から一人ずつ、少女と呼んで差し支えないほどの乙女が二人、姿を現した。

 肌が透けるほどに白いワンピースを揺らして、大樹の前で合流する。

 二人の少女は泉を挟んで対峙する傭兵に微笑むと、地を這う大樹の根に腰をおろした。

「「こんにちは、初めての人」」

 二対の目が、まっすぐに傭兵を見た。

 水のように透き通った表情は、鏡合わせのように似通っている。

 髪の色と瞳の色が異なっていなければ、まるで区別がつかない。

 色の異なりは、同時に、二人の個性でもあるらしい。

「私たちはこの果実を守っているの」

 明るい髪の少女が言った。

 その声は柔らかく、穏やかな水面を思わせる。

「欲しいのよね? この“宝玉”が」

 暗い髪の少女が言った。

 どこか、攻撃的な言葉。

 岩壁にさえ穴を穿つ水の一面性を思わせる。

「私はこれを貴方にあげてもいいの」

 少女たちは身近な枝から、老樹が身に付けた青い果実をもぎ取った。

「私はこれを貴方にあげたくないの」

 果実を口元に寄せて、二人の少女は優しく口付けをした。

 掌の上で果実に変化が起こり、その姿を淡い輝きを放つ宝玉に変える。

「「でも――」」

 顕現した宝玉を手に、水の守護者たちは立ち上がった。

 それと同時、泉の表面が激しくさざめき、幾重にも波紋がはしる。

「メグリアに傷がつくのは許せない」

 明るい髪の少女が、宝玉を握っていない手を暗い髪のの少女へと差し出した。

「貴方が望むから私はこれを守るの」

 差し出された手をとり、指と指を絡ませて、暗い髪の少女は傭兵を見た。

 水の宝玉の力が、開放される。

 さざめいていた水面が大きく波打ち、傭兵の衣服を濡らした。

 明確な敵意が、傭兵の肌を貫いて抜ける。

「……これは、楽しめそうだな」

 白いワンピースの裾をひるがえして、水の壁を前に立つ泉の守護者たち。

 二人の強敵を前にして、傭兵は口の端に獰猛な笑みを浮かべた。

 見かけどおりの相手では、けして、ない。

「メグリア、下がって!」

「アリッサ、下がって!」

 傭兵の笑みを静かに見返して、自身たちも微笑を浮かべた。

 水の壁を突き抜けて、二人の少女は水面を滑るように傭兵へと襲い掛かる。

 迎え撃つように、傭兵も水面を蹴った。

 ――戦いが、始まる。
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