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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :07/16/23:38

12062321 Day24 -紳士-

   -0-

「おのれ……」 怒りのあまり、彼はギリギリと歯を噛み締めた。

 うららかな午後――平原の昼下がり。

 彼と下僕と歩行雑草は、ゆったりとした時間を過ごしていた。
 そこへ、その男は土足であがりこんできたのだ。

 ――なんという、無粋な行為。

 至福のひと時。歩行雑草ちゃんとの甘く濃密なスウィートタイム。
 それを邪魔されたのだという思いで、はらわたが煮えくり返り、ボルテージばかりが上昇する。

「おのれ……!!」 とうとう彼は怒号を発した。

「よくも私の楽しみを――!!」

 眼前の男に指を突きつけて、言葉を吐き出した。

 自分を見つけるその男の冷ややかな眼差しが、よりいっそう彼をイラつかせる。

 ――すかした頬の傷跡が気に食わない。
 ――自分よりも背が高いのも気に食わない。
 ――美的センスのない衣服も気に食わない。

 とにかく、全てが気に食わない――これ程に、相性の悪い相手がいるものか。

「……遊んでいる暇はないんだ」

 さらに、その男の発言――まさに、火に油を注ぐ、その行為。

「ゆ、ゆ、ゆ、許せん!!」

 彼の顔が怒りで赤く染まった。頬がピクピクと動き、それにあわせて髭が揺れる。
 体中が熱を発して熱くなる。もはや、体が動き出すことを止められない。

「勝負だ……!!」

 体から発せられた気の裂帛が、周囲の草を根こそぎなぎ倒す。

 木の陰で彼の奴隷がハッと身をすくませたが、ついぞ彼は気付かなかった。



   -1-

 放たれた気が、男を中心として円を描くように草をなぎ倒した。
 気は恭平のところまで届き、恭平の髪を後方へとはためかせる。

「――いくぞ」

 それを合図に、恭平は動き出した。

 左足を一歩、前へ――それと同時に、後ろ足で地面を蹴る。
 頭から地面に突っ込むかのような低姿勢でバランスを保ち、弾丸のように疾走を開始した。

 なかば地面に埋まるように存在した切り株を蹴り、さらに加速。
 さらに硬いものを求めて岩を――加速に相次ぐ加速――高速の世界へ。

「えぇい……!!」

 眼前の男が自身の衣服に手をかける。その間に、その脇を駆け抜けて背後に立った。
 狙いは、死角からの先制攻撃。投擲剣の狙いを男の背にあわせ、やめる。

 ――いま、攻撃をしてはいけない。

 傭兵の勘が、警鐘を鳴らしていた。

 男が振り返る。――その不敵な笑み。全てお見通しだ、と言わんばかりの。

「……邪魔だっ!!」

 回転しながら、男が自身の衣服――Yシャツをを脱ぎ捨てた。
 もはや身に付けたものは黒のボクサーパンツのみ。程よく鍛え上げられ、均整のとれた肉体が白日のもとに晒されている。

「……な、に?」

 それには恭平も意表をつかれた。咄嗟のことに反応が追いつかない。
 
 その間に、男の次の行動を許してしまう。

「私を――この、サバスを怒らせるとどうなるか……その目で記憶したまえッ!!」

 半裸の男――サバスが声を張り上げて、ポーズを決めた。

 サバスを中心に不可視の波動が放たれる。魔力的素養のない恭平には、それが見えない。
 その恭平の目の前で、不可解な現象が巻き起こった。

 まず最初に、サバスの周囲の地面が蠢いてみえた。
 それは次第に草へと普及し、サバスの周囲で草が集まり緑塊となった。

 緑色の塊は形を変え――筋骨逞しい男性の姿を形成する。

「モッサァァァァァァァッ!!」

 気付けば、5体の歩行雑草が、サバスを囲み守るようにして恭平の前に立ちはだかっていた。

「……く」

「ふはは、どうだ!!」

 歩行雑草の陰となって見えないが、サバスが哄笑をあげた。

 緩慢な動きで歩行雑草たちが恭平を目指す。どうやら、敵と認識されたようだ。
 どのような方法によるものかは分からないが、彼らがサバスによって操られていることは間違いない。

「……多数を相手どる練習には丁度いい」

 あまりのことに反応が遅れていた恭平だが、持ち前の冷静さを取り戻していた。

 歩行雑草――雑草が擬人となり、歩行能力を得たもの。だが、戦闘力は皆無に等しい。
 ――今の恭平にとって、手強いとはいえない相手。

 落ち着いて対処すれば、恐ろしい相手ではない。
 ただ、その後ろに潜むサバス――戦闘力は未知数。それだけが、恐ろしい。

「――片をつける」

 再度、大地を蹴って加速し、恭平は歩行雑草の群れに向かって自ら飛び込んでいった。
 接触する寸前に、両の手でワイヤーを抜き放つ。

「モッサァ!」

 顔のすぐ横を、歩行雑草の拳が轟音をあげて掠めていった。
 相手の突き出した拳が早かったわけではない。そこへ突っ込んでいく恭平の速度が常軌を逸していたのだ。

 その歩行雑草の身体を駆け登り、肩を蹴って恭平は飛翔する。

「えぇい、ちょこまかと……!!」

 サバスの絶叫――。

 その頭上を飛び越えながら、恭平はワイヤーを振り払った。

 日光を反射して銀のワイヤーが輝く――幾重にも折り重なる光のライン。
 複雑な軌道を描いて、空中からワイヤーが歩行雑草とサバスを急襲した。


   -2-

「お……お前がやったのかぁぁッ!!」

 サバスと名乗った男が、緑色から若草色に変わりつつある歩行雑草たちの中央に立ち、絶叫した。

 恭平の放ったワイヤーは歩行雑草たちを切り刻んだ。
 主人を守るようにして、歩行雑草たちは壁となり、それを甘んじて受け入れた。

 しかし、致命傷ではない。

 恭平にしても、相手の戦力を削ぐ――その程度の意識で放った一撃だった。

「地獄はこれからだ……」

 だが、歩行雑草たちは倒れた。枯れるようにして。
 その亡骸を踏み越えるように、サバスが恭平へと向かって歩き出す。

 恭平が攻撃を放ち、歩行雑草たちが倒れるまで――その数瞬のうちに、サバスの姿は様変わりしていた。

 鍛えられていた肉体。だが、それはこれ程までに、研ぎ澄まされていただろうか。
 見せる為に鍛えられた肉体。一度はそう判断した相手の肉体が、いまは鍛え上げられた兵士のそれに見える。

「……くっ!」

 悠然と歩いてくるサバスに向かって、ワイヤーを放った。

 一の線――右後方から迫る。
 二の線――地を這い、足元を狙う。
 三の線――正面から縦に奔る。
 四の線――波打ちながら、胴を薙ぐ。

 その、どれもが、サバスに直撃した。直撃し、血の線を細く浮き立たせ、全てが弾かれた。

「詫びろッ!詫びろッ!詫びろッ!」

 恭平の一撃を全て受け止めて、サバスは恭平へと近づいた。
 鬼気迫る表情で、同じ言葉を繰り返す。

「――詫びろォッ!」

「――なッ?!」

 ひときわ強いサバスの言葉――同時に、恭平が呻いた。

 ――右手が。

 恭平の意思に反して右手が繰り出された。
 短剣を握り、万力の力を込めて突き出される――持ち主である恭平自身へと。

 咄嗟に左手で右手首を握り、喉へ触れる寸前といった場所でそれを食い止めた。

「ハァーハッハッハァーッ!!」

 高笑いをあげるサバスの圧力。それをうけて、恭平の右手にいっそうの力が込められる。
 短剣の切っ先が肌に刺さり、血の玉が浮いた。

 目に見えない力が、恭平を絡めとっていた。恭平の額から汗が流れる。

「……黙ってろ」

 それは、とっさの判断。

 右手と左手を拮抗させたまま、恭平は蹴りを放った。
 その勢いでブーツの底に仕込んだ投擲剣を飛ばす。

「なんと――!!」

 正確にサバスへと放たれた短剣を視認して、サバスが笑いをやめた。

 死の流星を、その刀身を掴むことで止める。裂けた肌から血が流れた。

 瞬間、恭平の右手を操っていた力が弱まった。間隙をぬって、恭平は地面を蹴る。
 サバスに肉薄する。身体を操作する暇を与えない。

 ――連撃。

「ハッハァーッ!! やるではないか!!」

 突き出された腕を、サバスは自身の腕で逸らす。円の動きで腕を捕らえようと動く。
 それに先んじて、恭平は逆の手を一閃させた。サバスは腕を掴むことを諦めて、飛びずさることで回避する。

 それを追うように、恭平も駆ける。短剣を両の手に構え、防御など考えずに突っ込む。

 サバスが蹴りを放った。左足をあげて、ブロック。サバスの右腿へと、短剣を振り下ろす。

「ぐ――」

 鋼のように筋肉を突き抜けて、短剣が突き刺さった。

 サバスが一瞬、顔をしかめる。が、次の瞬間には、右拳が放たれている。

 ――クリーンヒット

 恭平の右頬に拳が激突し、鈍い音をたてた。恭平がのけぞる。サバスがほくそ笑む。
 身体が後ろへと突き飛ばされる反動をこらえ、恭平はその場に踏みとどまった。

 おかえしとばかりに、短剣を失い空いた手で握り拳をつくり鉄槌をお見舞いする。

「ぐおっ……!!」

 鼻を潰されて、サバスが今度は我慢できず、呻きをあげて顔をおさえた。
 溢れ出る鼻血が喉へと流れ込み、サバスから呼吸を奪う。

「――終わりだ」

 恭平がサバスの髪を掴む。

 ヘッドバット――顔を抑えるサバスの手を狙って、頭を繰り出した。

 たまらず、サバスがたたらを踏む。自然と滲む涙に濡れた目が、恭平を見る。
 ごぼごぼと血を吐き出しながら、かぶりをふる。

「が……な、なんということだッ!!」

 信じられない、というようにサバスが悲鳴をあげる。

「力が――」

 爆砕――突然の衝撃が恭平に叩きつけられた。

 吹っ飛ばされ、地面を転がり、数メートルも離れたところで制止する。
 くらくらと揺れる頭を抑えながら立ち上がると、最初と同じ姿になったサバスが平原に横たわっていた。

 ――戦いの決着。

「はわわ、マスター、大丈夫ですかぁ~!!」

 戦いの結末を見届けた魔法使いの少女は、涙を浮かべつつ木の陰から駆け出した。
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