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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :04/26/06:38

10022320 Day19 -手記-

   -0-


 陽だまりのアトリエ。ガラス越しに差し込む太陽光で暖かに照らされたテラス席。
 籐編みの椅子に腰をかけて、男は本に視線を落としていた。

 ネイビーの色が濃いジーンズ。集中力を高めるためか、普段はかけないメガネをしている。
 普段着ではないホワイトシャツはパリッと洗濯され、石鹸の香りを漂わせていた。

 そこは戦場からは程遠い楽園に近い場所。
 ここに居るときは、戦場を忘れる。それが、彼女との約束だ。

 ガラス張りのテラスは温室にもなっていて、その周りを彩るように植栽がなされている。
 機械的ではない手作業の跡がうかがえ、それらを施した人間の愛情が伝わってくるかのようだ。

 赤青黄色の色彩豊かな花々、青々と茂った緑葉樹。
 作業はまだ途中であるらしく、腐葉土の袋が隅に高々と積まれているのはご愛嬌だろうか。

 ハラリとまた1ページを読み進め、男は泥のようなコーヒーを啜った。
 朝からこうしてずっと、本を読んでいる。

『――この本を読んでみてよ!!』

 ふっと、本を男に押し付けた少女の言葉が脳裏に蘇った。

 本はもともと、このアトリエにあったもの。興味をもたない男には発見できなかったものだ。
 彼女はそれを、掃除の最中に見つけたらしい。

 著者は女。男はその女のことを、何も知らない。
 ただ、少女はよく知る人物であるようだ。

 男がここに戻ってきたとき、彼女は懐かしむようにその本を読んでいた。
 椅子にチョコンと腰掛けて、ジッと本を読む姿は普段の印象とは違って面白いものだったが。

 その後、顔を真っ赤にした少女に本を押し付けられて、
 その言葉に逆らうこともできず、男は今の今まで本を読み続けていたのだ。

 シャワーを浴び、泥と汗と血に塗れた服を着替えることを優先させたが、それからずっと、だ。

 本の内容は、男に理解のできるものではなかった。

 一人の女の探索日誌とでもいうのか。
 文章は淡々としており、その著者を想像させるようなものではない。

 女性自身に関わらないこと。他の冒険者に関する一文には、温かみが感じられた。
 その中には、少女のことも記されている。

 かつて、このアトリエに集った者たちの思い出だ。
 それを覗き見ることは、申し訳のないことのように思え、男はその部分は読み飛ばした。

 遺跡でのできごと。戦い方。
 ところどころには女とも思えない内容が記載されている。

 まるで兵法書だな……。

 そういった箇所の詳細さに男は舌を巻いた。

 また1ページ、読み進める。

『瞬速料理技法に関する考察と挑戦』

 そのページの表題には、そう記されていた。

 男の目がハッと見開かれる。

 少女には感謝しなければならないのかもしれない。
 男が求めるもの、それが、そこにあった。

「……試してみる価値は、ありそうだ」

 そこで栞を挟み、男は本を閉じた。

 椅子から立ち上がり、空を眩しそうに見上げる。
 
 どうやら、忙しい一日になりそうであった。
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