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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :07/16/23:38

06240202 Day07 -立壁-


   -0-

 薄暗い回廊を進み、T字路に突き当たったので左の道を選択する。
 薄明かりさえもない暗闇の中、暗視に長けていなければ進むことは難しい。

 明らかに人の手が入った――しかし不整形な岩を積み上げただけの両壁。
 そこにこびりついたヒカリゴケだけが唯一の光源だ。

 ときたま薄明かりを放つ虫や爬虫類が壁を這うこともあったが、
 恭平の気配を察しているのだろう、ほとんど見かけることもない。

 光の届かない深海には、自ら光を放つ生物が多く生息すると聞くが、
 遺跡の闇に閉ざされた彼らもそういった進化を遂げてきたのだろうか。

 岩と岩の隙間を埋めるように流し込まれた砂からひょっこり頭を出したミミズが、
 大型の蜘蛛に捕らえられていた。

 一瞬が命取りだ。

 下っているのか、上っているのか、感覚を狂わせる道が続く、
 前方に見えるのは壁だ。

 残念なことに、この道も外れだったらしい。

「……またか。」

 薄ぼんやりと明かりを放つ冒険者の地図を取り出して、
 恭平手ずから書き加えた道の一つに×印をつける。

 遺跡――というよりも、迷宮と呼んだほうがしっくりとくるほどに、此処は道が入り組んでいる。
 おおまかなエリアしか記載されていない冒険者の地図では、正しい道を把握することはできなかった。

 ここまでに七つの角を折れ、三つの階段、さらに何かが開けた大穴を経由している。

 全て記憶しているが、記録に残すに越したことはない。

 道を戻り、右に折れる方向へも進んでみたがこちらも行き止まりだった。
 本来は道が続いていたのだろうが、崩れた天井によってふさがれてしまっている。

「……これは、ずいぶんと戻らないとならないな……。」

 ここまでの道の大半は、片方が正解で片方が不正解だった。

 ここ同様に潰れてしまった道も多く、そういった場合は誰かの残した抜け道があったのだが、
 この道にはそれらしきものもない。

 地道に一つ一つ調べ上げる他はないだろう。
 まだ足を踏み入れていない分岐も数多くある。

 ここを抜けるにはまだまだ時間がかかりそうだった。

 足音を立てず、生き物を刺激しないように注意しながら、時間をかけて来た道を戻る。

 角を曲がり、壁の隙間を潜り抜け、天井に開いた穴に手をかけて上り、階段を下って、
 次の角を折れれば、少し広い空間がある。

 そこで一度、休憩を取ろう。

「……?」

 今後の算段をつけていた恭平の目に映ったのは、道が続いているはずの場所に立ちはだかる石壁だった。

 道を間違えたのか。
 地図と記憶とを照らし合わせながら戻ってきたのだ。それはないと言えた。

 だが、実際にこの前に立ちはだかる石壁は現実だ。

「……どうなってる……。」

 警戒しながら、石壁へと歩み寄る。
 遺跡に仕掛けられたトラップによって、道を塞がれてしまったのだろうか。

 いまさら、壁の一つや二つが動いたところで驚くほどのことではない。
 しかし、今から新しいルートを探るのは困難だ。

 できればこの先の広場へと戻りたい。

「……移動するほどの壁なら。」

 さほどの重量はないはずだ。どうにか動かせないだろうか。

 短剣を鞘に収め、石壁に触れる。

「そんなところ触らないでよ!!」

 突然の叫び。恭平の触れた石壁が、音を立てて遠ざかった。
 その背後から、少女の声。

 隙間から漏れる明かりに目を細め、恭平もまた石壁から距離をおいた。


   -1-


「……な、なに?」

 石壁の影に、女の姿見えた。
 恭平が考えたのと同じように、彼女もこの広場で休息をとっていたのだろう。

 突如、動き出した石壁に驚いているのか。
 はたまた、自分の予期しない動きを石壁がした為に驚いているのか。

 探索者の中には、遺跡内の怪物を従えるものもいるという。
 石壁そのものに驚いている様子がないので、それが正解だろうか。

「……壁が、生きているのか……?」

 様々な事象に対して随分と寛容になっていた恭平だったが、
 石壁が動き、喋ると言うのは想定の範囲外だった。

 草が動くのだから、おかしくもないのかもしれないが。

「ただの壁じゃないよ!!」

 恭平の言葉を拾ったのか、石壁が反論をする。

 ちょこんと突き出た足で、方向転換し石壁は恭平に向き直る。
 もっとも眼も鼻もないのだから、どちらが前で後ろかなど判然としないのだが。

 こちらが前だとすると、恭平は後ろから石壁に触れたことになる。

「許さないんだから!!」

 触れたことに怒っているのか、石壁は猛然と恭平に襲い掛かってきた。

「て、敵なの?!」

 自身の使い魔――ペットか――の動きから、女も恭平を敵と認識したらしい。
 ずいぶんとまずいことになった。

「……待て、やる気はな……。」

 ドゴン!! という重たい音に、恭平の言葉はかき消された。
 恭平に詰め寄ろうとしていた石壁が、隧道の入り口に激突したのだ。

 男か女かは分からないが、石壁が通り抜けるには天井が低すぎたらしい。

 道を崩されてはたまったものではない。
 恭平はその隙に、石壁の脇を抜けて広場へと躍り出る。

「……くっ!」

 同時に地面を転がった。その場にいてはまずい気がしたのだ。
 女が魅惑の魔力を放ったのだが、恭平には知る由もない。

 ただ、漠然とした気配を感じて、そちらへと気をぶつけざまに回避したに過ぎない。

 二人の気はぶつかり合い、中空で霧散したようだった。

「ひどいよ!!」

 のそのそと石壁が恭平へと向き直る。

 広いと言っても人間にとっての広さだ。
 石壁も含めると、ずいぶんと狭い空間だった。

 石壁の動きはのっそりとしていて、ありていに言って遅いのが救いだろうか。

「……。」

 石壁の影に隠れるようにして、恭平を睨む女の姿。
 すっかり誤解されてしまったようだ。

 もはや言葉で収まるような状況ではない。すくなくとも、石壁は。

「動かないでよ!!」

 勝手なことをいいながら石壁は、ドスドスと地面を揺らしながら恭平へと真っ直ぐに突っ込んでくる。
 本人は走っているつもりなのだろうか、にょこっと突き出た腕がバタバタと空をかいていた。

 その動きは恭平の歩みよりも遅い。

「……まずは、女か……。」

 女を気絶させて、石壁を黙らせる。あとは隙を見ての撤退だ。
 そう算段をつけて、地面を蹴る。

 前方には石壁がのっそりと立ちはだかっている。
 真正面から石壁へと突き進み、接触寸前にスライディング。股の下を潜り抜ける。

 後方からズドンと鈍い音。慌てた石壁が扱けたのだ。

 そちらには目も向けず、女へと距離を詰める。

「……。」

 言葉もなく女は表情を引きつらせている。恐怖しているのだろう。

 恭平に悪意があるわけでもなく、必要のある戦いでもない。
 申し訳ないと思わないでもないが、この巡り合わせの不運を恨んでもらうしかないだろう。

 当てずっぽうに放たれた魔力が恭平を打つ。
 しかし集中を欠いた魔力の一撃だ。動きが止まるほどではない。

「……。」

 怪我をさせないよう、狙いを絞って一閃。
 慌てて飛びのいた女にかわされる。

 再び踏み込んでフェイントを放つ。
 ひっかかった女の上体が一撃を避けようと流れる。

 そこへ畳み掛けるように追撃。

「ひどいことをするなぁぁ!!」

 徐々に女を追い詰めつつあった恭平の背後から、再び石壁が迫った。


   -2-


 魔力の放出に当てられて、恭平もずいぶんと疲労しているのだが。
 石壁はそのことに気付かない。

「……ちっ。」

 女まで潰されたのではかなわない。

 女を蹴り飛ばして距離をおかせ、恭平は石壁に向き直った。
 石壁はやはりドスドスとゆっくりゆっくり近づいてくる。

 先ほどから、あちこちにぶつかったり、倒れたりしているのだが怯む様子がない。
 痛覚など最初からもっていないのだろう。石壁なだけに。

 短剣で切りつけたところで止まるような相手でもないだろう。

「悪党めぇぇ!!」

 すっかり悪者だ。雄たけびをあげながら石壁は恭平へと突進する。
 ゆっくり、ゆったり、まっすぐに。

 恭平は少し考えて、懐からワイヤーを取り出した。

 ワイヤーを手に走る。正面から再び石壁へと接近し、再びその足元を潜り抜けた。
 その際に、足へとワイヤーを巻きつけるおまけつきで。

「あぁ!!」

 クイ とワイヤーを引っ張ると、足をすくわれた石壁が倒れこみ正面の壁面に叩きつけられた。
 ほとんどダメージはなさそうだが。

 起き上がるのにはかなり時間がかかるだろう。
 そして、大人しく起き上がらせる気もない。

 ワイヤーを巻きつけた足と、もう一つの足を結びつけるのだ。

「歩けなくなっちゃうよ!やめてッ!」

 石壁が悲痛な声をあげる。

 意に介さず、恭平は手早く作業を終えた。

 これで、起き上がろうとしても石壁はまた転ぶことになる。

「ひどいよ!ひどいよぉッ!」

 手をじたばたさせて、石壁は何度も起き上がろうと試みるが、
 その度に違う方向へと倒れこみ、ついには泣き出してしまった。

「……図体の割りに女々しい奴だ……。」

 ため息を一つ。

 チラリと女を蹴り飛ばした方向に目をやると、女がこちらを睨んでいる。
 恐怖か、戦意か、その内情は分からないが……。

 こちらから近づかない限り、問題もないだろう。

「……すまなかったな。」

 石壁の泣き声にかき消されないよう、少し大きな声でそう告げて恭平はその場を後にした。

 どこかで休もう。ただひたすらに、色濃い疲労を癒すことを考えながら。
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