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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :04/26/06:44

06100139 Day05 outer -遺児-

   -0-


 恭平がその二人と顔を合わせたのは、闘技大会の当日のこと。

 酒場の一角に設けられた掲示板のそのまた一角、
 メンバー募集の張り紙に恭平は名乗りをあげたのだ。

 戦いの感覚を取り戻す為にも、現在の実力を確かめるためにも、
 闘技大会というイベントは好都合だった。

 しかし一人では参加することができない。そうして集まった三人だった。

「ふふ、よく集まってくれたね。」

 張り紙を張り出したのはこの少女なのだろう。

 踊り子のような肌の露出の多い衣装をまとった少女だ。
 露店で売られているような安っぽい装飾品やガラス玉で、全身で飾り立てている。

 その中で、青味がかった水晶石だけが異彩を放っていた。

 自身をティノと名乗ったその少女は、恭平ともう一人から微妙な距離を置きながらも微笑んだ。

「頼もしそうな二人で、嬉しいなぁ!」

 拳を打ち付けて パン と鳴らしながら、ティノはウォーミングアップを始めている。

 やる気は十分だ。

「クカカカ」

 もう一人、恭平をも凌ぐ体躯の持ち主は、奇妙な笑いを浮かべている。

 その表情をうかがい知ることはできない。
 異様な木製の仮面によって、隠されているためだ。

 ただ、冒頭でリガちゃんとだけ、名乗っていた。

「……やれやれだぜ。」

 三者三様。てんでバラバラの三人が集まってしまった。

 一抹の不安を胸に秘めながら、恭平たち三人は闘技大会の会場へと乗り込んでいく。



   -1-


 闘技大会の会場の一箇所である古代浴場の跡地に恭平たちは辿り着いた。
 その中央に座する円形のリングの上に、対戦相手たちは既に整列して待っていた。

 周囲の席には、物見遊山の冒険者や、観客目当ての露天商など、雑多な人種が入り乱れている。

「……ふん、お祭り騒ぎだな。」

 そんな様相に辟易としながらも、恭平はリングへと登る。

 例えどのような場所でも、恭平は戦うだけだ。
 短剣を抜き、試合開始のときに備えて構えをとる。

 視線を敵チームへと送ると、そのうちの一人が恭平の顔を凝視していた。

 似つかわしくない大斧を携えた、細身の少女だ。

「……キョウ……子、さん……?」

 少女がポツリと漏らした呟き。

 また、その名前か。島へやってきてからというもの、恭平に付きまとう恭子という名前。
 少女もまた、その関係者であったのだろう。

「……。」

 少女はかぶりを振って、再び、恭平を見た。

 違う人物であることを確認したのだろう。その目には、落胆の色が映る。

 ついで、少女は大斧を恭平へと向けてきた。
 宣戦布告、というわけだ。

「……始まるぞ。」

 審判が旗をあげる。始まりの合図だ。

「気休めにしかならないけれど。」

 その瞬間に、ティノが何事かをつぶやく。

 指を複雑に組み合わせ、規則正しく印を結ぶ。
 水筒から放たれた水滴が、その印に従って、まるで生き物のようにうごめいた。

「これで少しは魔法も防げるはず。」

 意思があるかのように、水はリガと恭平の身体へとまとわりついてくる。

 少しの時間をかけて、薄い皮膜となって水は二人の肌に定着した。
 動きが阻害されることもない。

「二人とも、しっかりね。」

 その結果に満足したのか、少女はあどけない表情で、ニッと笑ってみせた。

「……妙な、感覚だな。」

 見慣れない術に、恭平は目を見張る。
 彼の生きる世界に、このような技術は存在しない。

 しかし、使えるものは使うだけだ。

「ヌ……アレハ……。」

 横で、リガが呻りをあげた。
 その視線の先に、先ほど恭平を見やっていた少女がいた。

 大斧を小刻みに揺らしながら、足でリズムを取っている。

「……知っているのか? リガ」

「呪術師ノ使う、呪イだ。鼓動ヲ早めて、力を引キ出ス。」

 いわゆる自己暗示というやつだろうか。

 確かに、肺活量や血液の循環を自分の意思で早め、身体能力を上げる人間はいた。
 少女が行っているのも、それと同様か。

「まあ、いい……。」

 俺は、俺の戦い方をするだけだ。

 恭平はステップを踏みながら、徐々に自分のスピードを高めていく。
 相手がリズムならば、自分もリズムに乗るだけだ。

「さあ、始めようか!」

 戦いに先駆けて、ティノが吼えた。

 鋭い視線を相手方に向け、殺気を放つ。目に見えない圧力は、敵を圧迫するものだ。
 そして、恭平もまた別の相手へと殺気を放っている。

 しかし、狐耳を生やした敵の二人は、それを巧みにかわして前へと出る。

「よろしくねー。」

 そのうち、まだあどけない少年は、屈託のない笑みでリガに微笑みかけた。
 その視線に含まれた魅了の魔力が、リガの心を捉えようと動く。

「ヌゥ!!」

 魔力に抗うため動きの止まったリガを、もう一人の狐人の放った魔弾が打ち据えた。

「……気をつけろ。なかなかに素早い。」

 それは耳に表れているように、野性の血が流れているためなのか、狐人の動きは早い。
 仲間に注意を促して、恭平もまた油断なく敵へと視線を向けた。

 戦いの火蓋は、こうして切って落とされた。


   -2-

「……お願い。」

 光弾に撃たれる仲間の姿を横目に、口中で呟きながらティノは前進する。

 水袋から密やかに放たれた水は空気中に拡散し、風に乗って霧となった。
 ティノの言霊に従う霧は、大気中に漂うカーテンとなって彼女の姿を覆い隠す。

「補助する! 光源の反対側から接近、相手の影を撃って!」

 仲間にだけ聞こえるよう言霊を風に乗せて、ティノは大地を蹴った。

 狙いは霧に落ちる影。
 彼女が操る水霊が作り出したスクリーンは、彼女の敵の姿だけを映し出す。

 肌にまとわり付く水滴は着実に体温を奪い、敵の動きを鈍くするはずだ。

「……器用なことをするやつだ。」

 霧の向こうから、そんな声が聞こえた。
 その場の誰よりも素早く、駆ける者の姿がある。

 恭平だ。

 視界の悪い霧の中をものともせず、敵の影だけを追っている。

「……ちっ。」

 その動きが急に止まった。

 いつの間にか恭平たちの前に立ちはだかる影が、薄く引き延ばされ巨大な闇と化している。
 霧と闇とのせめぎ合いが、そこここで始まっていた。

「これは――。」

 霧を操る力に意識を集中させて、ティノは分析する。

 彼女が操るのが水ならば、その力の源は闇。

 敵の誰かが、闇を操って霧を押し返そうと力を働かせている。

「ヌンッ!」

 その闇を恐れもせず、復調したリガが頭から飛び込んでいった。
 逞しい拳を振りかざし、ただ眼前に立ちはだかるものに拳を叩きつける。

「きゃっ。」

 硬い金属音がして、細身の影が吹き飛んだ。

 リガの拳が捉えたのは、プリムラのかざした大斧であった。
 大斧を中心とした衝撃に耐え切れず、プリムラは宙を舞う。

「……えいっ。」

 空中で斧の重量を使い、体の位置を建て直す。
 大地に大斧を叩きつける反発力で衝撃を殺し、プリムラは大地に降り立った。

「……やってくれるじゃない。」

 しびれる手を軽く振り、プリムラは大斧を握りなおした。

 身を沈めて駆ける。

 狙いは彼女を叩き飛ばした大男と、その背後に位置する“彼女”によく似た傭兵だ。
 それもまた、許せない。

「……やっ!!」

 駆ける速度のままで、プリムラは大斧を振りぬいた。

「クカッ!」

 唸りをあげて接近する大斧を、リガはしゃがみこんで回避する。

「……何ッ。」

 その背後に位置していた恭平は、突然、闇の中から迫り来た大斧に表情を変えた。
 凄まじい勢いで大斧は迫る。薄闇と霧のカーテンは、恭平の視界からその姿を隠していた。

 術者同士の戦いに集中するティノに、敵の影を霧へ投影するほどの余裕はない。

「くそっ……。」

 大斧の進行方向へと咄嗟に飛びながら、恭平は両手に携えた短剣をひるがえし、斧の刃を十字に受けた。

 接点から感じる衝撃。まるでダンプカーに撥ねられたかのようだ。
 この受けを仕損じれば、彼の首は胴体を失うことになりかねない。

 恭平の額に玉のような汗が浮かぶ。

 しかし、それは一瞬のこと、プリムラの振りぬきのままに恭平は跳ね飛ばされ、5メートルほど跳躍して大地に落ちた。

 腕には痺れが残り、前に出した短剣は根元から砕け散っている。
 折れた短剣を捨て、恭平は立ち上がった。

「――アァ!!」

 いつの間にか霧が晴れている。

 そこで恭平が目にしたのは、二人の術者の前にねじ伏せられるティノの姿だった。


   -3-

「う……くっ……。」

 どうにか、闇の束縛から逃れ、ティノは距離をとる。

 彼女をねじ伏せたのは一人の術者ではない。
 薄闇との戦いに集中する彼女を、もう一人の術者が別の術で打ち据えたのだ。

 集中が緩んだ瞬間に、魔術理論をねじ伏せられ、霧もただの水と化し晴らされてしまった。

 雪辱は晴らさなければならない。

「はぁ!!」

 呼気一閃。強く大地を蹴るティノの跳躍力はゆうに3メートルを超える。

 闇を飛び越えて、着地。そこに、少年がいた。
 闇は彼を守るようにたゆたっている。彼が、闇を操る術者か。

「やぁ!!」

 その眼前で大地を蹴って、再びティノは跳躍した。

 太陽を背に、少年の頭上へと迫る。

 空中で身を捻って反転、死角から鋭い蹴りが少年の後頭部に襲い掛かった。

 蹴り飛ばされた少年は蹴鞠のように大地を転がっていく、その中で獣の瞳がいまだ空中にあるティノを見ていた。

「フッ。」

 唇をすぼめて、少年は息を吐く。 一瞬、その口元に何かが煌いて、見えた。

「……アッ。なんなの…・…。」

 着地したティノは、太ももに違和感を感じて、それを発見した。

 放たれたのは含み針。麻痺毒を持つ針は、ティノの肌に突き立っている。
 返しの付けられた針は容易くは抜けず、彼女の血流に毒を流し込んでいた。

「……毒か。」

 プリムラと打ち合っていた恭平が、リガとバトンタッチしてティノのそばにやってきた。

 足を押さえているティノの様子に、手馴れた様子でその箇所を見つけだし、そう断じる。

「つッ。」

 次の瞬間、針の根元を押さえ、恭平は一瞬のうちにそれを抜き取っていた。

 宣言も何もない動きだった。
 電気のように流れた痛みに、ティノは声もない。

「あ……。」

 そして、その痛みから立ち直る暇もなく プッツリ と血の玉を浮かべる彼女のふとももに、
 恭平が口を付けた。

 血と毒を吸い出し、恭平はそれを大地に吐き捨てる。

「……幾らかはまわっているが、これで多少は良くなるはずだ。……ぬかるなよ。」

 ティノが何を言う暇もなく、恭平はリガに加勢せんと、そのまま戦いの中へ戻っていった。


   -4-

 爆炎が晴れる。

 ティノと恭平の前に、盾となるようにリガが立ちはだかっていた。
 仮面を覆うようにして守る、ティノの足ほどもあろうかという両腕。

 その表面が、煤けている。

「……無事か?」

 熱せられた風を吸い込まないためか、口元に手を当てた恭平が聞いた。

「カカ、平気ダ。熱かっタがナ。」

 リガは笑って、それに応じてみせる。

「よし。……ティノ、いけるな?」

 リガの様子にまだいけると判断したのか、恭平はティノへと視線を移す。

 彼に毒を吸い出されたためか、先ほどよりは足の動きもいい。
 与えられたダメージは重たいが、ティノとてまだまだ動けるつもりでいる。

「――いけます。」

 決意を込めた瞳で、恭平を見返した。

「……いい眼だ。俺とリガが陽動する。敵の術士を撃て。」

「クク、任せロ」

 恭平の言葉に頷くリガ。

 短い作戦会議は、それで終わりだった。

「ヌゥウゥゥゥゥゥゥン!!」

 雄たけびをあげて、リガが突撃する。

 繰り出される豪腕は右・左と秩序なく、術士を守るプリムラを襲った。
 その腕の合間を縫うようにして、蛇のような恭平の短剣がさらに襲い掛かる。

「……くっ。」

 さしものプリムラも防戦一方。

 リガの拳を受け損ねれば痛打は避けられず、かといって恭平の短剣は的確に急所を狙いくる。

 一瞬の隙も作れない。

「だぁッ!」

 そして、彼女に襲い掛かる大男の背後から飛び出す少女の影があった。

 リガの背を蹴って、ティノは跳躍する。
 羽ばたく大鷲のように、プリムラの頭上を越えて、再び術士の前へと。

 この一撃を持って沈めることができれば、勝利を引き込めるはずだ。
 いつにない決意が、彼女の動きをはるか高みへと引き上げていた。

「……させない。」

 だが――プリムラが動いた。

 リガの右腕をステップインしてかわすと、斧の柄で恭平の短剣を払いのけた。
 そしてそのまま二人に背を向けるようにして反転、頭上を飛び越えるティノへと狙いを定める。

 大斧を自在に操るため、自然と鍛えられた脚がひるがえった。

 爆音を放って、大地がはじけ飛ぶ。

 プリムラが地面を蹴ったのだ。突然の圧縮力にはじけた土くれは、散弾銃のように上空のティノを襲った。

「な、なにっ!?」

 押し寄せる土石に、バランスを崩して羽を失ったティノは大地へと落ちる。

 露出した肌を石に切り裂かれ、見るも無残な姿となっていた。

 そして、それは大きな隙。

「「ティノ!!」」

 恭平とリガが同時に声をあげた。

 リガの一撃が背を向けたプリムラを吹き飛ばし、二人は前へと出る。
 しかし、残されていた甲殻蚯蚓が、その前に立ちはだかった。

 恭平の短剣が奔り、蚯蚓を切り伏せる。

 だが、時間稼ぎは一瞬でいい。

 獲物を前にした二人の術者は、容赦なく行動に移った。
 顕在化した二つの魔術理論が、ティノの身体を包み込む。

 余力を残していないティノに、その魔力に抗う術はない。

 闇がティノの視界を覆った。


   -5-


「ステーケス・トゥラ!!」

「無駄だよ。」

 闇を蹴散らさんと拳に闇を集めるリガを一瞥して、アオバはささやいた。

 禍々しき力の片鱗は、闇を統べる者の介入を受けて、形をなすことなく霧消する。

「ヌゥ!!」

 リガは仮面の奥で歯噛みするが、一度発動してしまったら最後、
 しばらく時を経なければ、もう一度力を使うことはできない。

 それが、力の制約だった。

「ま、まだ……。」

 闇の中から、ティノが這い出でてくる。

 全身はずたぼろ、身体は土に塗れているが、その眼はまだ諦めていない。
 戦うものの、戦士の眼をしていた。

「ぐ……。」

 敵が映る。彼女の前に倒さなければならない敵が立っている。
 この闘技大会。参加した以上は、負けるわけにはいかないのだから。

 立ち上がって、一撃を浴びせなければ、
 力を振り絞って、蹴りの一撃でも食らわせなければ、

 彼女は戦わなければならないのに。

「はぁっ!!」

 最後の息を吐いて一撃を放とうとしたティノの意識は、そこで途切れた。

「……いい根性だ。」

 気を失ったティノを片腕に抱きとめて、恭平は呟いた。

 視線の先では、リガが三人を相手に暴れている。
 だが、いかにも分が悪そうだ。

 彼も早く、戦場に戻らなければならない。

「……今は、休め。」

 ティノを大地に横たえて、恭平は前を見る。

 敵の数は三人。そして、まだ余力を残している。

 こちらは残る二人。
 恭平は、まだまだ戦える。

 どうにか、一矢報いなければ、この少女に申し訳がたたない。

「悪いが、ガキから仕留めさせてもらう……。」

 少女に守られるようにして戦う少年を見据え、狙いを定めた。

 予備の短剣を引き抜いて、逆手に握り締める。

 それは、肉食獣の牙にも似ていた。


   -6-


「う、うわっ……。」

 斧を受け止め、闇を突っ切り、自分へと迫る傭兵の姿にこんは狼狽した。

 魅了の魔力は傭兵を縛り付けているはずだが、効果が薄い。
 傍目には効いているのかどうかも怪しいほどだ。

 しかし、効いている。術者である彼にはそれが分かるのだ。

「……おねんねの、時間だ。」

 闇の発動は間に合わない。

 傭兵はもはや、こんの眼前にまで迫っていた。

「……ぐっ」

 その背にアオバの放った魔力弾が直撃するが、彼の視線はこんから離れない。

 蛇ににらまれた蛙のように、こんの体が硬直する。

――殺す。

 傭兵の視線は、まるでそう脅しかけているかのようだ。

「や、やだ……。」

 足が思うように動かなくて、もつれるようにして尻餅をついてしまった。

 首を振って、後ずさる。

 再びアオバの魔力弾。やはり、傭兵は揺るがない。

――殺す。

 その視線の刃が、見えない圧力となってこんを捉えていた。

「……。」

 歯の根が震える。言葉が出てこない。

 まだ、八歳の子供なのだ。

 しかし、彼が立っている場所は、戦場に他ならない。

 ここに立つ以上、彼は子供である前に、一人の戦士なのだ。

「……プ、リムラ。」

 プリムラに助けを求める視線を送るが、もう一人の大男に邪魔されて近づけずにいる。

 アオバがまた魔力弾を放とうとしているが、それでも、傭兵は止まらないだろう。

 こんの前に、死神が立ちはだかっている。

「……眠れ。」

 恐怖から、こんの頬を涙が伝う。

「……悪いな。」

 最後に苦笑して恭平が手刀を落とし、こんの身体は力なく大地に横たわった。


   -7-


「……許せない。」

 仲間が意識を失うのを見て、プリムラは怒りを燃やした。

 何よりも許せないのはあの男。キョウ子さんに似た雰囲気をもった傭兵だ。
 だけど、キョウ子さんはあんなじゃない。

 あんなに冷たく、子供を倒したりはしない。

 だけど、どことなくキョウ子さんに似ていると感じてしまう、そのことが許せなかった。 

「……下がってて。」

 これで二対二。こちらが有利だとは思うけれど、油断は許されない。

 アオバを後ろに下がらせて、プリムラは前に出る。
 怒りが彼女の後押しをしていた。

 先ほどから打ち合っている大男を後退させて、いつしか大男と傭兵と二人を相手にしていた。

 しかし、プリムラは一歩も退かない。

 放たれる一撃を、突き出される短剣を、大斧の一閃で薙ぎ払い彼女は立ちはだかる。

 時折、援護するかのように放たれるアオバの魔力弾も彼女を救っていた。

「ククカカカ」

 ついに限界を迎えたのか、大男が土煙をあげて ドウ と倒れこむ。

 これで、相手は一人だけだ。

「……手を出さないで。」

 最後に残るのは、この男だと思っていた。

 視線を背後に送り、釘をさす。この男とは、一人で闘わなければならない。

 キョウ子さんに教わった戦い方を、自分で磨いてきた戦闘技術を、
 かつてこの島で学んだ全てを使って、この男を倒す。

「――来い。」

 そんなプリムラの胸中に気づいてか、傭兵が言った。

「……いきます。」

 それに応じて、プリムラは斧を振りかざす。

 大振りはしない。より、コンパクトに斧を振る。
 一撃を重視するときは柄の端を握り、そうでなければ斧の根元を握る方がいい。

 柄は武器のひとつ、時にはその部分を使うことも肝要。

 そして、武器に頼らないこと――。

『あなたは、力があるんだから。それも活かさなくちゃ、だめよぅ。』

 練習試合の後に、伝えられた言葉が蘇る。

 あの人の教えを胸に、プリムラは強くなっていった。

「……その、動きは。」

 突き出された短剣を手の平で払いのけ、斧を小脇に抱えて一歩踏み込む。
 固定された槍と化した大斧の柄が、傭兵の胸元に迫る。

 サイドステップでそれをかわす傭兵を追って跳躍、斧は地面に突き刺したまま置いていく。

 右拳で打ちつける。
 その手首が掴まれた、彼女の力がそのまま流されて後方へと放り投げられる力となる。

 その動きに逆らわずプリムラは宙返りをして、傭兵の背後に降り立った。

 そしてその場所には斧が突き立っている。

「誰に、習った……。」

 傭兵が、聞いてくる。それに答えなければならないいわれはない。

「……。」

 無言のうちに大斧を引き抜いて、プリムラは走った。

 一撃で決めるのならば、それに全てをかけること。

 傭兵もまた、彼女へと向けて走り出す。

 双方ともに迷いはない。

「……やぁ!!」

 左腕を前に突き出し、左足を大きく踏み込んで、大斧を右後方に振り上げる。

 遠心力に腕が引っ張られ、筋肉が悲鳴をあげた。

 ――私は弓。

 極限まで引き絞られた大斧を、全身のバネを使って解き放った。

 その一撃を恭平は正面から受け止める。

「……!!」

 その、受け止めた短剣が砕け散った。

 恭平の牙をへし折って、大斧は恭平の身体をとらえる。

「……ち。」

 咄嗟に動いたものの、かわしきれなかった。

 肩口を襲った衝撃は、恭平の肋骨をことごとくへし折っていった。

 まさに、超獣の一撃。

 大地に膝をつきながら、恭平が思うのは少女の技。

 彼の師にも良く似た、その動き――。

「……くしょう。」

 その考えがまとまりもしないうちに、恭平の意識もまた闇にのまれた。


 ――こうして一回戦は恭平の敗北のうちに終わった。
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