血の染み付いた手帳
しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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05240334 | DAy?? -麦酒の泡と消えて- |
フォウトさんと、イルさんと、楽しい時間を過ごしてきました。
イメージ図は此方を参照に。
美味しゅうございました、また機会がありましたら、ぜひ。
-ⅰ-
「……」
「恭平さん」
呼ばれて、傭兵は振り返った。
「こちらです」
馴染みの女傭兵が、革の鞄を手に立っている。
「……とてつもない、人ごみだな。待たせた」
「もう少し、場所を詳細に説明すべきでしたね。すみません」
休日の遺跡外――町は人々でごった返していた。
待ち合わせ場所に指定されたオブジェも、人の群に埋もれている。
「かまわん。下調べをしなかった俺にも非があるからな」
生真面目に謝る女傭兵に、傭兵は苦笑してみせた。
その様子に、女傭兵がほっと息を吐く。
「人ごみは、苦手でな。……俺たちだけか?」
「いえ――あと、イルさんがいらっしゃる予定なのですが」
傭兵の問いかけに、女傭兵が答える。
懐中時計を開き、時刻を確認した。
「どうも、遅れているようです」
待ち合わせの時刻は、少し過ぎている。
「イルか……獣人の貴族だったか」
「ええ、素晴らしい方ですよ」
「それで、全てか?」
再度、確認するように傭兵が問うた。
「それが、ティカさんも来たがったのですが……」
「ティカが、か?」
すでに夜の刻――子供が出歩く時間ではない。
「あの方は、けっこう飲まれますからね」
「そうだったな……」
火と花と、森の宴を思い出す。
あの子供は、大人が負けるほどに、呑んでいたような気がする。
「それで、来たがったのですが――ホマレさんと、マツリさんに止められたようです。
私としては、少しホッとしています」
「……さすがに、街中では、な」
遺跡の中でなら、蛇の道は蛇――細かなことを気にしない傭兵たちである。
しかし、遺跡外のような衆目のある場所では、それがトラブルを招くこともある。
「残念ですが、今夜は我慢していただくほかはないでしょう」
「……ああ。どうやら、待ち人も来たようだ」
会話を切り上げ、路地のひとつの示す。
街灯に照らされて、白い毛並みの獣人が浮き上がってきた。
「……すみません。道に迷ってしまいました……」
「こちらこそ、詳細な地図を用意すべきでした」
しきりに謝罪する犬人に、女傭兵は頭を下げる。
「揃ったのだからよしとしよう――フォウト、案内してくれ」
「そうですね……申し訳ないのですが、寄り道をしてもよろしいでしょうか?」
女傭兵は、確認するように二人の顔を見る。
「……私は、かまいませんけれど」
「好きにしろ」
即座に返答がある。
「申し訳ありません。珈琲豆を切らしてしまいまして」
「なに、もののついでだ。……かまわんさ」
傭兵が追うように頷く。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
歩き出した女傭兵について、二人も歩き出した。
-ⅱ-
女傭兵の案内した店は、階段を下った先にあった。
「……へえ、こんなところにあるんですね」
「ええ、良い酒もおいてある店です」
簡単に説明をしながら、女傭兵は入り口をくぐった。
「いらっしゃ……あら、どうも♪」
女傭兵の姿を認めて、女店員が微笑んだ。
接客用の態度というだけではなく、親しさが感じられる。
「……なんだ、常連なのか?」
「そんな……いえ、そうかもしれませんね」
否定しようとして、薄く笑いながら女傭兵は案内された席についた。
「良い酒の揃う店は貴重ですから、つい、よく使ってしまう」
「……確かに、居心地のよさそうな店だ」
傭兵に言われ、一瞬、嬉しそうに女傭兵の口元がほころんだ。
「お料理は、何がおすすめなのでしょうか?」
メニューを見ながら、犬人が聞いた。
「そうですね。以前、案内した方は、古代米の結びが気に入ったそうですよ」
「……むすび?」
きょとんとして、犬人が聞き返す。
「東洋の料理です。……米、は分かりますよね。
古代米という品目の米を、三角形に握り固めた携帯食料です」
「……へえ、それは不思議な食べ物ですね」
女傭兵の説明に、犬人が目をまんまるくする。
「……それを三つ頼もう。食えないものはないのだろう?」
傭兵の問いかけに、他二名が首を横に振った。
「ならば、適当に頼もう。足りなければ追加すればいい」
「そうですね。貴重な時間です、早く始めるとしましょう」
傭兵の言葉に、女傭兵がすばやく同意する。
「酒はどうする?」
「私は、麦酒で……皆さんも、同じでよろしいですか?」
「俺はかまわん」
傭兵の返答だけを聞いて、女傭兵が店員を呼ぶ。
「あ、すみません……私は、果実酒で」
慌てて犬人が言った。
「果実酒……カシスですね。かしこまりました」
ちょうど現れた店員が、犬人の注文を伝票に記した。
「それと、麦酒を二つ、お願いします」
「かしこまりました」
店員がさらに起票する。
「後は、適当につまみを頼むとしよう――タラの腸漬けか、これをひとつ」
食料を確保するべく、傭兵たちはメニューに視線を落とした。
-ⅲ-
「ところで、恭平さん。
さきほど聞いた話では珍しい東洋の酒があるそうなのですが……」
「……ほう」
互いに麦酒を空にしたタイミングを見計らって女傭兵が切り出した。
「東洋のお酒ですか?」
果実酒を舐めながら、犬人が問いかけた。
「ええ、非常に美味しいお酒だそうです。いかがですか?」
女傭兵は二人の顔を見る。
「またとない機会だ。……もらおう」
「そう言ってくださると思っていました。
イルさんも、一献ぐらいはお付き合いください」
「……それぐらいでしたら」
犬人はおずおずと承諾した。
「……まるで、水のようだな。香りが、良い」
店員が運んできた硝子の徳利を見て傭兵は感嘆した。
「そういう特徴のようです。どうぞ、お注ぎしましょう」
「お前の酌か……」
「何か、ご不満でも?」
「……なに、貴重な経験をさせてもらうさ」
酒盃を傾けて、和やかに傭兵は酒を受けた。
「……」
「イルさん、どうしました?」
「……いえ、なんでもないです。すみません」
「? お注ぎしましょう」
「は、はい。ありがとうございます」
犬人は恐縮して酒を受けた。
注ぎ終えた女傭兵は、サッと自分の杯も酒で満たした。
「揃いましたね。それでは、いただきましょう」
『――乾杯』
-ⅲ-
「……この、むすび、というのは美味しいですねぇ」
犬人は料理に舌鼓を打っていた。
「恭平さん、杯が空ですよ。どうぞ」
「……ん、ああ」
「すみません。果実酒を、ください」
傭兵が注がれる横で、犬人は果実酒を追加した。
「……確かに、料理も美味い店だ」
「そうでしょう。良い店なのですよ。
もう一種類、東洋の酒があるそうなのですが、注文して構いませんよね」
誰に聞くでもなく言って、女傭兵はまた違った東洋の酒を頼んだ。
先ほどと同じ硝子の徳利になみなみと注がれた酒が運ばれてくる。
「ん……確かに、先ほどのものとは違いますね。
新しい杯もきましたし、さあさ、どうぞ恭平さん」
「……今のを、飲んでからで構わんぞ?」
「今注ぐのも、後注ぐのも同じです……将は迅速を尊ぶといいます」
「すみません……古代米のおむすび、というものをもうひとつください」
ほどなくして、大きなおむすびが運ばれてきた。
「おや、イルさん。気に入っていただけたようですね」
「……はは、お腹はちょうどよいのですが、美味しくて」
果実酒をちびちび舐めながら、犬人は恥ずかしそうに笑った。
「……雄大な味だ。良い水を使っているのだろうな」
「彼の国にも、偉大な酒のマイスターがいるのでしょう。
どうぞ、お注ぎします」
「……ああ」
注がれながら、傭兵は魚介の刺身に箸を伸ばした。手馴れたものだ。
「アルクリーフさんも、来るとおっしゃっていたのですが。
どうも、今日中に仕上げなければならない仕事ができてしまったそうで」
杯を空にし、新しく注いで、また空にしながら女傭兵は言った。
「アルクリーフ……あの、雑草女か」
「ざっそ……ええ、私の仲間です。また、紹介いたしますよ」
「……残念です。私もお会いしたかった……やっぱり、これは美味しいなあ」
拳大のむすびがいつの間にか、ない。
「……おや、酒もなくなってしまいました」
「……行くか? そろそろ魔方陣も閉まる頃だ」
「歩くのも面倒です。いきましょうか。お会計を――」
女傭兵は、伝票を手に店員へと声をかけた。
-ⅳ-
「では、私は方向が違いますので……また」
女傭兵は、すたすたと姿勢よく街路の闇に消えた。
「……く」
「あの……恭平さん、大丈夫ですか?」
「無事だ……無事というのは、損害が軽微だということだ……」
確固とした足取りで傭兵は歩む。
定点を繋げる魔方陣までの道のりは、そう遠くない。
「……そ、そうですか、それなら良いのですが」
「……問題ない。急ごう、閉まりかねん」
「は、はい」
「……フォウト、この借りは、いずれ返す……」
犬人は、何かを聞いた――そして、それを忘れた。
平日の夜――思い思いに、時は過ぎていく。
To Be ...
この物語は、nフィクションです∈(・ω・)∋
イメージ図は此方を参照に。
美味しゅうございました、また機会がありましたら、ぜひ。
-ⅰ-
「……」
「恭平さん」
呼ばれて、傭兵は振り返った。
「こちらです」
馴染みの女傭兵が、革の鞄を手に立っている。
「……とてつもない、人ごみだな。待たせた」
「もう少し、場所を詳細に説明すべきでしたね。すみません」
休日の遺跡外――町は人々でごった返していた。
待ち合わせ場所に指定されたオブジェも、人の群に埋もれている。
「かまわん。下調べをしなかった俺にも非があるからな」
生真面目に謝る女傭兵に、傭兵は苦笑してみせた。
その様子に、女傭兵がほっと息を吐く。
「人ごみは、苦手でな。……俺たちだけか?」
「いえ――あと、イルさんがいらっしゃる予定なのですが」
傭兵の問いかけに、女傭兵が答える。
懐中時計を開き、時刻を確認した。
「どうも、遅れているようです」
待ち合わせの時刻は、少し過ぎている。
「イルか……獣人の貴族だったか」
「ええ、素晴らしい方ですよ」
「それで、全てか?」
再度、確認するように傭兵が問うた。
「それが、ティカさんも来たがったのですが……」
「ティカが、か?」
すでに夜の刻――子供が出歩く時間ではない。
「あの方は、けっこう飲まれますからね」
「そうだったな……」
火と花と、森の宴を思い出す。
あの子供は、大人が負けるほどに、呑んでいたような気がする。
「それで、来たがったのですが――ホマレさんと、マツリさんに止められたようです。
私としては、少しホッとしています」
「……さすがに、街中では、な」
遺跡の中でなら、蛇の道は蛇――細かなことを気にしない傭兵たちである。
しかし、遺跡外のような衆目のある場所では、それがトラブルを招くこともある。
「残念ですが、今夜は我慢していただくほかはないでしょう」
「……ああ。どうやら、待ち人も来たようだ」
会話を切り上げ、路地のひとつの示す。
街灯に照らされて、白い毛並みの獣人が浮き上がってきた。
「……すみません。道に迷ってしまいました……」
「こちらこそ、詳細な地図を用意すべきでした」
しきりに謝罪する犬人に、女傭兵は頭を下げる。
「揃ったのだからよしとしよう――フォウト、案内してくれ」
「そうですね……申し訳ないのですが、寄り道をしてもよろしいでしょうか?」
女傭兵は、確認するように二人の顔を見る。
「……私は、かまいませんけれど」
「好きにしろ」
即座に返答がある。
「申し訳ありません。珈琲豆を切らしてしまいまして」
「なに、もののついでだ。……かまわんさ」
傭兵が追うように頷く。
「ありがとうございます。では、こちらへ」
歩き出した女傭兵について、二人も歩き出した。
-ⅱ-
女傭兵の案内した店は、階段を下った先にあった。
「……へえ、こんなところにあるんですね」
「ええ、良い酒もおいてある店です」
簡単に説明をしながら、女傭兵は入り口をくぐった。
「いらっしゃ……あら、どうも♪」
女傭兵の姿を認めて、女店員が微笑んだ。
接客用の態度というだけではなく、親しさが感じられる。
「……なんだ、常連なのか?」
「そんな……いえ、そうかもしれませんね」
否定しようとして、薄く笑いながら女傭兵は案内された席についた。
「良い酒の揃う店は貴重ですから、つい、よく使ってしまう」
「……確かに、居心地のよさそうな店だ」
傭兵に言われ、一瞬、嬉しそうに女傭兵の口元がほころんだ。
「お料理は、何がおすすめなのでしょうか?」
メニューを見ながら、犬人が聞いた。
「そうですね。以前、案内した方は、古代米の結びが気に入ったそうですよ」
「……むすび?」
きょとんとして、犬人が聞き返す。
「東洋の料理です。……米、は分かりますよね。
古代米という品目の米を、三角形に握り固めた携帯食料です」
「……へえ、それは不思議な食べ物ですね」
女傭兵の説明に、犬人が目をまんまるくする。
「……それを三つ頼もう。食えないものはないのだろう?」
傭兵の問いかけに、他二名が首を横に振った。
「ならば、適当に頼もう。足りなければ追加すればいい」
「そうですね。貴重な時間です、早く始めるとしましょう」
傭兵の言葉に、女傭兵がすばやく同意する。
「酒はどうする?」
「私は、麦酒で……皆さんも、同じでよろしいですか?」
「俺はかまわん」
傭兵の返答だけを聞いて、女傭兵が店員を呼ぶ。
「あ、すみません……私は、果実酒で」
慌てて犬人が言った。
「果実酒……カシスですね。かしこまりました」
ちょうど現れた店員が、犬人の注文を伝票に記した。
「それと、麦酒を二つ、お願いします」
「かしこまりました」
店員がさらに起票する。
「後は、適当につまみを頼むとしよう――タラの腸漬けか、これをひとつ」
食料を確保するべく、傭兵たちはメニューに視線を落とした。
-ⅲ-
「ところで、恭平さん。
さきほど聞いた話では珍しい東洋の酒があるそうなのですが……」
「……ほう」
互いに麦酒を空にしたタイミングを見計らって女傭兵が切り出した。
「東洋のお酒ですか?」
果実酒を舐めながら、犬人が問いかけた。
「ええ、非常に美味しいお酒だそうです。いかがですか?」
女傭兵は二人の顔を見る。
「またとない機会だ。……もらおう」
「そう言ってくださると思っていました。
イルさんも、一献ぐらいはお付き合いください」
「……それぐらいでしたら」
犬人はおずおずと承諾した。
「……まるで、水のようだな。香りが、良い」
店員が運んできた硝子の徳利を見て傭兵は感嘆した。
「そういう特徴のようです。どうぞ、お注ぎしましょう」
「お前の酌か……」
「何か、ご不満でも?」
「……なに、貴重な経験をさせてもらうさ」
酒盃を傾けて、和やかに傭兵は酒を受けた。
「……」
「イルさん、どうしました?」
「……いえ、なんでもないです。すみません」
「? お注ぎしましょう」
「は、はい。ありがとうございます」
犬人は恐縮して酒を受けた。
注ぎ終えた女傭兵は、サッと自分の杯も酒で満たした。
「揃いましたね。それでは、いただきましょう」
『――乾杯』
-ⅲ-
「……この、むすび、というのは美味しいですねぇ」
犬人は料理に舌鼓を打っていた。
「恭平さん、杯が空ですよ。どうぞ」
「……ん、ああ」
「すみません。果実酒を、ください」
傭兵が注がれる横で、犬人は果実酒を追加した。
「……確かに、料理も美味い店だ」
「そうでしょう。良い店なのですよ。
もう一種類、東洋の酒があるそうなのですが、注文して構いませんよね」
誰に聞くでもなく言って、女傭兵はまた違った東洋の酒を頼んだ。
先ほどと同じ硝子の徳利になみなみと注がれた酒が運ばれてくる。
「ん……確かに、先ほどのものとは違いますね。
新しい杯もきましたし、さあさ、どうぞ恭平さん」
「……今のを、飲んでからで構わんぞ?」
「今注ぐのも、後注ぐのも同じです……将は迅速を尊ぶといいます」
「すみません……古代米のおむすび、というものをもうひとつください」
ほどなくして、大きなおむすびが運ばれてきた。
「おや、イルさん。気に入っていただけたようですね」
「……はは、お腹はちょうどよいのですが、美味しくて」
果実酒をちびちび舐めながら、犬人は恥ずかしそうに笑った。
「……雄大な味だ。良い水を使っているのだろうな」
「彼の国にも、偉大な酒のマイスターがいるのでしょう。
どうぞ、お注ぎします」
「……ああ」
注がれながら、傭兵は魚介の刺身に箸を伸ばした。手馴れたものだ。
「アルクリーフさんも、来るとおっしゃっていたのですが。
どうも、今日中に仕上げなければならない仕事ができてしまったそうで」
杯を空にし、新しく注いで、また空にしながら女傭兵は言った。
「アルクリーフ……あの、雑草女か」
「ざっそ……ええ、私の仲間です。また、紹介いたしますよ」
「……残念です。私もお会いしたかった……やっぱり、これは美味しいなあ」
拳大のむすびがいつの間にか、ない。
「……おや、酒もなくなってしまいました」
「……行くか? そろそろ魔方陣も閉まる頃だ」
「歩くのも面倒です。いきましょうか。お会計を――」
女傭兵は、伝票を手に店員へと声をかけた。
-ⅳ-
「では、私は方向が違いますので……また」
女傭兵は、すたすたと姿勢よく街路の闇に消えた。
「……く」
「あの……恭平さん、大丈夫ですか?」
「無事だ……無事というのは、損害が軽微だということだ……」
確固とした足取りで傭兵は歩む。
定点を繋げる魔方陣までの道のりは、そう遠くない。
「……そ、そうですか、それなら良いのですが」
「……問題ない。急ごう、閉まりかねん」
「は、はい」
「……フォウト、この借りは、いずれ返す……」
犬人は、何かを聞いた――そして、それを忘れた。
平日の夜――思い思いに、時は過ぎていく。
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