血の染み付いた手帳
しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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09030106 | Day17 -小隊- |
-0-
乾いた砂を撫でるように風が吹く、微小な砂の粒子が吹き払われ砂漠は一夜にして姿を変える。
小高い頂となっていた丘の砂が全て吹き流され、また別のところに小山が生まれた。
その丘の跡地には一人の男が横たわっている。
流砂に飲まれたと思われた恭平だった。
同じエリアの中とはいえ、かなりの距離を砂によって運ばれていた。
再び陽は巡り。再び、砂漠には昼の時間が訪れている。
照りつける太陽から恭平を守ったのは、ほかならぬ彼を飲み込んだ砂の層であった。
表面こそ肌が文字通り焼けるほどに熱い砂漠の砂だが、地中まではその熱も届かない。
ひんやりと心地よい天然の保冷材が、恭平の身体を多い保護していた。
自分から仮死状態となることで動きを止めた恭平を運び守ったのだ。
そして、今、風が恭平を掘り当てた。
仮死という深い眠りから恭平を呼び覚ますのは、照りつける太陽の役目だ。
外的要因による体温の上昇。
そこから、連鎖的に仮死状態からの解凍が始まる。
「……く。」
小さなうめき声をあげて、恭平は爪先で砂を掻いた。
それから、両の手で身体を支え、起き上がる。
全身に忍び込んでいた砂が、恭平の動きに合わせてパラパラと零れ落ちた。
砂交じりの唾を吐き捨て、周囲を見る。
一面の砂地。だが、ところどころに硬い石の床が露出して見える。
回廊への入り口が近い証拠だ。
「……。」
まだ万全ではない身体を引きずるようにして、恭平は回廊があるであろう方向に向けて歩き出した。
ざくざくと砂を踏み鳴らして進む。
だが、その柔らかな砂の感触は、徐々にコツコツとした無機質な硬さにとってかわられた。
回廊の入り口だ。
急激な温度の違いから、回廊の入り口では風が逆巻き、砂の竜巻が荒れ狂っている。
砂の雨の原因はここにあったらしい。
新調に砂竜巻をさけ、硬い地面を選んで回廊へと進む。
人工の灯りが照らし出す、ほの暗い空間に立ち入ったとき、寒気のするような冷気が恭平の身体を通り抜けていった。
-1-
以前探索した回廊と違い、ここは道幅も広く天上も高い。
同じ遺跡の中とはいえ、場所によって大きな差異が在るらしい。
継ぎ目のみえない床は、どのような技術によるものかまったいらに磨かれた石版を敷き詰めたもののようだ。
よくよく目を凝らして見なければ分からないほどの接合部。全ての石材は等間隔に配置されている。
強く踏みしめてもひび割れ一つおこさず、触れてみればひんやりと冷たい。
どうも、ただの石ではないのかもしれない。
短剣で突けば、恐らくは刃が欠けてしまうに違いなかった。
硬い床材に広い空間のため、不用意に歩けば足音はよく響く。
もとより音など立てないが、恭平はいっそう注意深く足を運んだ。
空間が広ければ広いほど、強大な存在が容易に動き回ることも可能となる。
ランドウォームのように大型の生き物が、生息していないとは限らないのだ。
いま、恭平の戦力でそのような対象を相手にするのは難しい。
恭平はもとより、人間を相手にする訓練を積んできた傭兵だ。
多少の獣なら、今までに数多く屠ってきた。
しかし、最大のものでも像ぐらいのものだ。
かつて、クスリによって強化され兵器と化した巨象と戦った時のことを思い出す。
だが、この島にはそれ以上の大物がごろごろしている。
まだ、直接に見たことはないが、その存在はひしひしと肌に感じられていた。
出会っていないというのは、運がよいのか。
それともそのように仕組まれた結果なのか。
この島の背後には、何者かの腹黒い意思が働いている。
もはや、それを疑う余地はないが、何が狙いなのかまでは定かではない。
今回、この場所を訪れたのは他でもない。
それを、ほんの少しでも知っているかもしれない相手がいると聞いてのことだった。
何度か話しに聞かされた小隊という連中。
その響きから、恭平にとっても馴染み深い一個小隊が想像された。
隊長格が一人、部下が三人。
それだけの組織では在るまいが、この回廊の先に彼らは待ち受けているらしい。
今は情報を集めることが先決だ。
戦いとなれば一対三、数の上では恭平が不利に思える。
だが、有益な情報が望めるかもしれないとあれば、避けて通るわけにもいかない。
それに、島に来て以来、これも理由は不明だが衰えてしまった恭平の身体能力も戻りつつある。
大勢が一人を相手に戦うと言うのは、その実、簡単なことではない。
そこに、勝機はあった。
「……。」
また、この島で行われている闘技大会。
力の戻り具合を確認するには良い腕試しと参加をしていたのだが、思わぬ収穫もあった。
世の中には、面白い戦い方をする奴らがいるものだ。
何も武器は短剣や肉体ばかりではない。
状況に応じたあらゆるもの、道端に落ちている石ころから、壁面に至るまで全てが凶器となり得るのだ。
恭平とて、そういった戦い――徒手空拳での潜入任務――を経験したこともある男だ。 重々承知のつもりでいたが、しかし知らぬ間に形成された常識はその目を曇らせる。
それだけではない。
不可視の衝撃や、青白くたなびく炎、空中を縦横無尽に翔ける雨。
恭平の理解を超えた術利を駆使するものも多い。
これらの力は恭平に扱える類のものではない。
だが、それに対する対策、知識は恭平を少なからず恭平を成長させている。
それに自身では扱うことができなくとも、間接的にその恩恵にあずかることは可能なのだ。
自然と頭の中で作戦をシミュレートしながら、ふと恭平は少女のことを思い出した。
闘技大会をともにした仲間だ。名前をティノといったか。
まだ幼い少女だった。そして、その年齢に似つかわしくないほどの何かを背負った。
彼女も今頃は遺跡の中を探索しているのだろう。
果たして、元気にしているだろうか。
遺跡を探索する冒険者である以上、全ての冒険者はライバルの関係にあると言える。
だが、奇縁に結ばれた相手の身を案じていけない道理はない。
同時に、彼女は恭平が認めるほどに優れた体術の持ち主ではあるのだが。
どうも、この島には強い女が集まるらしいな。
などと考え、ときおり柔らかな雰囲気を漂わせる厳格な女傭兵を思い浮かべ苦笑した。
特殊な環境なだけに縁は増える。
それが後々、恭平にとって良くないこととならなければよいのだが――。
恭平が選ぶ道は決まっているのだから。
「何者だ!!」
前方に松明の炎。そして、幾人かの兵士の姿。
垂加の声を発したのは、その中の誰かであろう。
はるか前方から炎の存在には気付いていたが、あえて悠々とそちらを目指して進んでいたのだ。
おそらく、そこに追い求める相手がいると思ったから。
緊張した面持ちで恭平の前に立ちはだかる兵士たちの背後に、派手な格好をした男が気だるそうに立っている。
その外見に惑わされそうになるが、この中で一番の使い手であることは間違いない。
おそらくは、隊長格の男とは彼のことだろう。
「……や~だなぁ、また来ちゃったの?」
心底、気だるそうに隊長は呟いた。
どうやら、戦いになりそうだ。――恭平は静かに短剣の柄に手を添える。
乾いた砂を撫でるように風が吹く、微小な砂の粒子が吹き払われ砂漠は一夜にして姿を変える。
小高い頂となっていた丘の砂が全て吹き流され、また別のところに小山が生まれた。
その丘の跡地には一人の男が横たわっている。
流砂に飲まれたと思われた恭平だった。
同じエリアの中とはいえ、かなりの距離を砂によって運ばれていた。
再び陽は巡り。再び、砂漠には昼の時間が訪れている。
照りつける太陽から恭平を守ったのは、ほかならぬ彼を飲み込んだ砂の層であった。
表面こそ肌が文字通り焼けるほどに熱い砂漠の砂だが、地中まではその熱も届かない。
ひんやりと心地よい天然の保冷材が、恭平の身体を多い保護していた。
自分から仮死状態となることで動きを止めた恭平を運び守ったのだ。
そして、今、風が恭平を掘り当てた。
仮死という深い眠りから恭平を呼び覚ますのは、照りつける太陽の役目だ。
外的要因による体温の上昇。
そこから、連鎖的に仮死状態からの解凍が始まる。
「……く。」
小さなうめき声をあげて、恭平は爪先で砂を掻いた。
それから、両の手で身体を支え、起き上がる。
全身に忍び込んでいた砂が、恭平の動きに合わせてパラパラと零れ落ちた。
砂交じりの唾を吐き捨て、周囲を見る。
一面の砂地。だが、ところどころに硬い石の床が露出して見える。
回廊への入り口が近い証拠だ。
「……。」
まだ万全ではない身体を引きずるようにして、恭平は回廊があるであろう方向に向けて歩き出した。
ざくざくと砂を踏み鳴らして進む。
だが、その柔らかな砂の感触は、徐々にコツコツとした無機質な硬さにとってかわられた。
回廊の入り口だ。
急激な温度の違いから、回廊の入り口では風が逆巻き、砂の竜巻が荒れ狂っている。
砂の雨の原因はここにあったらしい。
新調に砂竜巻をさけ、硬い地面を選んで回廊へと進む。
人工の灯りが照らし出す、ほの暗い空間に立ち入ったとき、寒気のするような冷気が恭平の身体を通り抜けていった。
-1-
以前探索した回廊と違い、ここは道幅も広く天上も高い。
同じ遺跡の中とはいえ、場所によって大きな差異が在るらしい。
継ぎ目のみえない床は、どのような技術によるものかまったいらに磨かれた石版を敷き詰めたもののようだ。
よくよく目を凝らして見なければ分からないほどの接合部。全ての石材は等間隔に配置されている。
強く踏みしめてもひび割れ一つおこさず、触れてみればひんやりと冷たい。
どうも、ただの石ではないのかもしれない。
短剣で突けば、恐らくは刃が欠けてしまうに違いなかった。
硬い床材に広い空間のため、不用意に歩けば足音はよく響く。
もとより音など立てないが、恭平はいっそう注意深く足を運んだ。
空間が広ければ広いほど、強大な存在が容易に動き回ることも可能となる。
ランドウォームのように大型の生き物が、生息していないとは限らないのだ。
いま、恭平の戦力でそのような対象を相手にするのは難しい。
恭平はもとより、人間を相手にする訓練を積んできた傭兵だ。
多少の獣なら、今までに数多く屠ってきた。
しかし、最大のものでも像ぐらいのものだ。
かつて、クスリによって強化され兵器と化した巨象と戦った時のことを思い出す。
だが、この島にはそれ以上の大物がごろごろしている。
まだ、直接に見たことはないが、その存在はひしひしと肌に感じられていた。
出会っていないというのは、運がよいのか。
それともそのように仕組まれた結果なのか。
この島の背後には、何者かの腹黒い意思が働いている。
もはや、それを疑う余地はないが、何が狙いなのかまでは定かではない。
今回、この場所を訪れたのは他でもない。
それを、ほんの少しでも知っているかもしれない相手がいると聞いてのことだった。
何度か話しに聞かされた小隊という連中。
その響きから、恭平にとっても馴染み深い一個小隊が想像された。
隊長格が一人、部下が三人。
それだけの組織では在るまいが、この回廊の先に彼らは待ち受けているらしい。
今は情報を集めることが先決だ。
戦いとなれば一対三、数の上では恭平が不利に思える。
だが、有益な情報が望めるかもしれないとあれば、避けて通るわけにもいかない。
それに、島に来て以来、これも理由は不明だが衰えてしまった恭平の身体能力も戻りつつある。
大勢が一人を相手に戦うと言うのは、その実、簡単なことではない。
そこに、勝機はあった。
「……。」
また、この島で行われている闘技大会。
力の戻り具合を確認するには良い腕試しと参加をしていたのだが、思わぬ収穫もあった。
世の中には、面白い戦い方をする奴らがいるものだ。
何も武器は短剣や肉体ばかりではない。
状況に応じたあらゆるもの、道端に落ちている石ころから、壁面に至るまで全てが凶器となり得るのだ。
恭平とて、そういった戦い――徒手空拳での潜入任務――を経験したこともある男だ。 重々承知のつもりでいたが、しかし知らぬ間に形成された常識はその目を曇らせる。
それだけではない。
不可視の衝撃や、青白くたなびく炎、空中を縦横無尽に翔ける雨。
恭平の理解を超えた術利を駆使するものも多い。
これらの力は恭平に扱える類のものではない。
だが、それに対する対策、知識は恭平を少なからず恭平を成長させている。
それに自身では扱うことができなくとも、間接的にその恩恵にあずかることは可能なのだ。
自然と頭の中で作戦をシミュレートしながら、ふと恭平は少女のことを思い出した。
闘技大会をともにした仲間だ。名前をティノといったか。
まだ幼い少女だった。そして、その年齢に似つかわしくないほどの何かを背負った。
彼女も今頃は遺跡の中を探索しているのだろう。
果たして、元気にしているだろうか。
遺跡を探索する冒険者である以上、全ての冒険者はライバルの関係にあると言える。
だが、奇縁に結ばれた相手の身を案じていけない道理はない。
同時に、彼女は恭平が認めるほどに優れた体術の持ち主ではあるのだが。
どうも、この島には強い女が集まるらしいな。
などと考え、ときおり柔らかな雰囲気を漂わせる厳格な女傭兵を思い浮かべ苦笑した。
特殊な環境なだけに縁は増える。
それが後々、恭平にとって良くないこととならなければよいのだが――。
恭平が選ぶ道は決まっているのだから。
「何者だ!!」
前方に松明の炎。そして、幾人かの兵士の姿。
垂加の声を発したのは、その中の誰かであろう。
はるか前方から炎の存在には気付いていたが、あえて悠々とそちらを目指して進んでいたのだ。
おそらく、そこに追い求める相手がいると思ったから。
緊張した面持ちで恭平の前に立ちはだかる兵士たちの背後に、派手な格好をした男が気だるそうに立っている。
その外見に惑わされそうになるが、この中で一番の使い手であることは間違いない。
おそらくは、隊長格の男とは彼のことだろう。
「……や~だなぁ、また来ちゃったの?」
心底、気だるそうに隊長は呟いた。
どうやら、戦いになりそうだ。――恭平は静かに短剣の柄に手を添える。
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