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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :04/26/06:45

09030104 Day16 -流砂-

   -0-


 蠢く雑草で埋め尽くされた草原を抜けると、そこは風にのった砂の逆巻く砂漠だった。
 歩行雑草に追われたいた少年の姿は、気付けばすでになく、恭平は再び独りとなっている。

 外と同様に、夏の太陽が照りつける遺跡の異常自然。
 まだしも、穏やかな風や、木々によってそれが緩和されている平原は過ごしやすかった。

 乾いた風と、熱せられた砂に覆われた、文字通りの砂の海は、灼熱の地獄と化している。

 遠くにゆらゆらと立ち込めるのは蜃気楼。
 そこに、小さな湖が浮かび上がっている。

 追えば逃げる、いわゆる逃げ水というものだろう。
 かつて、多くの旅人が喉の渇きからそれを求め、砂漠の中に呑まれていったと伝え聞く。

「……厳しい、な。」

 荷物の中から水筒を取り出し、残りの水量を確認する。

 平時であれば72時間以上水分を摂取せずとも動くことができる恭平だが、
 果たしてこの照りつける太陽の下、どれだけの間、耐え切ることができるだろうか。

 肌から、呼吸から、体内の水気はとめどなく奪われる。

 遺跡の中のことだ。いざとなれば、外に戻ることもでき、命に問題はないとはいえ……。
 ここを抜けられないのでは、先へと進むこともできない。

 そう、考えつつも、恭平はすでに砂の中へと踏み込んでいた。
 避けては通れない道なら、時間を無為に使うよりは進みつつ考えた方が効率もいい。

 なによりも、ここでは立っているだけで体力を奪われる。

「……。」

 踏みしめた砂はもろく崩れ去り、ともすれば恭平の身体を呑みこもうとする。
 砂浜を歩いたことのある者ならば想像もできようが、やわらかな砂の上は実際歩きづらいものだ。

 堅い地面を歩く数倍もの力が必要とされる。

 編みこみのブーツの隙間からパラパラと小さな砂が入り込み、それが不快だった。

 ほんの少しでも体力の消耗を抑えようと、口を一文字に噤み恭平は砂漠を進む。

 空を見上げればそこには照りつける太陽が映っているが、その実、透き通った空の先には壁がある。
 以前、平原の境に見つけた壁を登り、その空の上を確認したのだから間違いはない。

 その、空の向こうにある、味気のない石壁。
 そこから降りしきる砂の雨が、ときおり恭平を打った。

 風や砂の流れによって押しやられた砂が、どこからか壁の内側を通り抜け循環しているのだろう。
 ひょっとすると、竜巻が舞い上げた砂が重力を取り戻し、墜ちてきているだけかも知れないが。

 なんにせよ、その砂の雨や、強い日差しのため、
 ジャケットで身体を覆い隠しながら、熱に耐えて進まなければならなかった。

 ほんの暑さであれば、上着は脱いだ方が快適だ。
 しかし、このような場所で肌を露出させることは、命取りである。

 偽りの島に日は高く上り、昼を迎えてますます太陽はその力を増しつつあった。

 遥か遠方には山が見える。平原が見る。湖が、無機質な人工の石壁が、男が、女が、少年が、町が見える。

 それは蜃気楼が見せる幻。どこかの風景か、どこにもない風景かもしれない。
 それとも、そこには真実、それらが存在するのであろうか。

 砂の海を渡るとき、熱の壁に映し出された風景に希望を抱き、そして、打ち砕かれて倒れるものは多い。
 その足が真実の大地を踏みしめるその時まで、気を抜くことは許されない。

 全身から噴出する汗に、体力がじりじりと奪われる。
 夜になれば、極寒の世界となる砂漠だが、昼はまさに灼熱の地獄だ。

 熱に強いはずの生き物たちも、この時刻は砂の中に隠れて動かない。

 そんな生命の許されない土地を、恭平は一歩二歩と踏みしめるように歩く。
 ごくごく稀に、根付くサボテンを見つけてはその果肉を切り裂き、蓄えられた水の恩恵にあずかっていた。

 朦朧とする意識を、強固な意志で押さえつけ、ただ前を見て歩く。
 その進む先が正しいのかどうか、景色に変化の見られない土地では自身の感覚だけが頼りだ。

 それが正しかったのかどうか、恭平の足が硬い何かを踏んだ。


   -1-


 恭平が踏みしめたもの、それは巨大な蟹の甲殻だった。
 おそらくは、先に此処を通過した冒険者が倒したものだろう。砂漠には虹色の貝や、巨大な蟹が生息していると聞いている。

 前に荒野で戦った巨大なラクダも、砂漠に生息する生き物であるらしい。
 なるほど、あのコブには様々なものが蓄えられていそうであった。

 蟹の甲羅は貴重な素材となるのだが、残念なことに激しい戦いのためか深く傷ついていて使い物になりそうにない。
 この殻の持ち主を屠った者たちも、その為に捨て置いたのだろう。

 それとも、荷物に余裕でもなかったのか……。
 巨大、と名うたれているだけに、その殻は分厚く、大きく、運ぶにも手こずりそうなほどだった。

 その中でも特別に硬い部分が、防具や装飾、武器として好まれるというが、
 その部位がどこであるのか、まだ直接に関わったことのない恭平には判断がつかない。

 余裕があれば検分していきたいところだが、そうもいかないようだ。

 少しばかり、この甲羅の上に立ち止まっていただけだが、周囲の景色が変化している。
 それは砂山の位置が微妙に異なる、といったような些細なことだったが。

 その微細な変化を恭平は見逃していなかった。

「……ち。」

 周囲の光景が変化しているのではない。
 恭平の位置が徐々に動いていっているのだ。

 砂が胎動している。甲殻の上に立っていたため、そのことに気付くのが遅れてしまった。

 流砂だ――。

 小さく軽い砂がどこへともなく流れている。
 気付けば甲殻という船にのって、恭平は砂の川の真っ只中にとり置かれていた。

 砂の柔らかさは、先ほどまで歩いていた砂地の比ではない。
 一歩、甲殻から踏み出した途端、恭平の身体は砂に呑まれ沈みこんでしまうだろう。

 一度、沈んでしまうと、脱出は容易ではない。
 いや、脱出など絶望的だと考えた方がいいだろう。

 ロープを短剣に結わえて即席の道を作ろうにも、それを引っ掛ける木も岩もここにはない。
 どうにかしなくては……。

 運がいいことに、甲殻は砂に飲まれることもなく、砂上をたゆたっている。
 どこからどこまでが流砂なのか、砂の動きを眼で追う事は難しく判然としない。

 たいした距離でなければ、跳躍によって抜け出すこともできるかもしれないのだが、
 判断がつかないのではそのような博打にうってでることもできない。

 じっと、熱による消耗を抑えながら、冷静な眼で恭平は周囲を見渡した。
 どこかに、何かがあるはずだ。

 それは一瞬のことかもしれない、活路を見落とすわけにはいかない。

 ゆっくりと、だが、確実に、砂は恭平と甲殻を運んでいる。
 段々とその速度は速まっているようだ。

 既に、ずいぶんと運ばれてしまったように思える。

「……くそ。」

 恭平の目が、何かを見つけた。

 だが、それは喜ばしいことではないようだ。ジャケットを手放し、恭平は短剣を引き抜き身構える。
 砂を押しのけて、それは川の中から姿を現しつつあった――。

 日は高く、まだ沈む気配をみせない。
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