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血の染み付いた手帳

しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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  • :04/27/10:50

05240215 Day02 outer -篝火-

 林の中を駆けるも一興。

 ぬかるんだ足元、道を塞ぐ木の枝、肌を裂く草葉の刃。

 鉈の重さを持つナイフで、それらを薙ぎ払い、突き進む。

 すると、道なきところに新たな道ができた。
 踏みしめられた大地は、次の瞬間には新しい道となる。

 それは、獣道のようなもの。

 数多の獣たちが踏みしめて作るのが獣道ならば、
 恭平が進む場所にできる道はなんと呼べばよいのだろう。

 人間も、また、野獣。

 ならば、それもまた獣道で正しいのか。

 ただ、多くの人間たちが、
 かつて己たちも野獣であったことを忘れてしまっただけだ。

 長く苦しい戦いの果てに、恭平は失われた獣性をも取り戻している。

 森の臭いは心地いい。
 そこは恭平にとって、揺り篭のように心安らぐ場所であった。

 手にした牙を巧みに操り、己の道を切り開いてゆく。

 視界は悪い。

 遺跡にも、夜が訪れていた。

 されど、恭平の歩みに衰えは見られない。

 彼は夜歩く者。

 闇を恐れ足を竦めるような傭兵であったなら、
 彼は、今、ここに存在することを許されていなかっただろう。

 天に瞬くヒカリゴケの薄明かりを頼りに、不安定な足場を蹴って恭平は進む。

 前へ――。

 遺跡の闇が深いのであれば、そのさらに懐へと飛び込まなければならない。

 恭平は遺跡を知らないに過ぎる。
 彼は、遺跡を知らなくてはならない。

 そうでなければ、この戦いを勝ち抜くことも難しいだろう。

 情報の収集を優先させる。
 耳を発達させたウサギにも似た臆病さが、彼を今日まで生きながらえさせてきたのだ。

 先を行く冒険者の痕跡を見つけ、最適なルートを選択する。
 または、すれ違う冒険者の会話を傍聴し、遺跡に関する情報を集めた。

 とある冒険者は言った。

 噂ではこの遺跡には莫大な財宝が眠っているらしい。
 誰よりも先にそこへと辿り着いたなら、望むものが手に入るそうだ。

 その冒険者は、それを狙ってこの遺跡へと辿り着いたのか。

(……財宝? くだらないな)

 望むべきものもない恭平には、関係のない話だ。
 彼の任務はゲリラの殲滅。

 それ以上でもそれ以下でもないのだから。

(もしも、俺が手に入れたならば、何処かの海に捨ててしまおう。)

 過ぎた力は、人を狂わせる。

 自然の法則に逆らうことは身の破滅を招くのだと、経験から学んでいた。
 財宝がどのようなものかは知らないが、ろくなものではあるまい。

 かつて、与えられた力におぼれ、身を滅ぼしていった者たちがいた。
 恭平もいずれはその末席に名前を連ねるのだろう。

 だが、そうなるのは、彼だけでよい。

 いつの頃からか、恭平にはそういった信念が芽生えていた。

 夜の闇の中に思考は冴え、ここに恭平の目的がひとつ定められた。

 遺跡に眠る宝物の破壊。

 それは、けして優先順位の高い目的ではない。
 だがしかし、そう思いながらも、避け得ぬ運命を恭平は感じていた。

 遺跡の中に潜る限り、その宝物からは逃れられないのかも知れない。

(……道を間違えたか)

 嫌な予感に、思索を中断して、周囲を見渡した。
 どうも、予測とは違う場所へと、向かっているようだ。

 複雑な遺跡内の地形が、恭平の感覚を少しずつ歪めていたらしい。

 いつ頃からか、乱立する木立の中に、
 紅よりも赤い、煌々とした花々が、花を咲かせているようになっていた。

(……しかし、美しい場所だ)

 恭平にも、無駄を愛する心は存在する。

 無害であるのならば、全ては美しいに越したことはない。
 自らの手を介さない美は、彼にとっても好ましいものだった。

 自らが労力を裂いてまで、手に入れようとは思わないものの、
 速度を緩めるでもなく、花々の饗宴を楽しみながら、闇の中を駆けていく。

(……灯り?)

 次第に花の密度が増していく折、恭平は先に揺らめく焔を見つけた。

 ゆらゆらとゆらめく――赤。

 闇に映え、木々に映るかがり火は、まるで花のように見えた。
 そこに、人の気配がする。

 歩む速度を緩め、風に揺れる木々のざわめきよりも静かに足を進める。
 注意をして進まなければならない。

 必要以上に警戒することもないが、何者かは推し量らなければならない。
 損耗は避けたいのだから。

 響くのは コンコン という乾いた音。

 近づくにつれて、木々の香りの中に、ココナツの香りや花の香りが混じった。
 どうやら、かがり火を焚いている人物が、食事の用意でもしているのだろう。

(……野営か)

 このような場所にいるものだ、冒険者に違いあるまい。

 時は夜更けも夜更け。
 闇でさえも眠るのではないかと思えるかのような時間だ。

 疲れた冒険者が、休みをとるべく火をおこしてもおかしくはない。

(……誰か、くる)

 ガサガサ、と恭平とは反対側の林を揺らして、二つの影が焔に浮き出された。

 よくよく見れば、かがり火の周囲に集まるものは一人や二人ではないらしい。
 冒険者の集団なのか。

 しかし、そこには統率された団のような結束は感じられない。

 印象としては、酒場に集まる人々にも似た雑多な感があった。

 現れた影は男と女。
 ハンチングのような帽子を被った大男と、風に揺らめく布を身にまとったしなやかな女だ。

 女のしなやかな足の運びと、対照的な、ここまで足音の聞こえそうな男の歩み。
 声は聞き取れないが、唇の動きを読むに、酒をもってきたと言っているらしい。

(……宴会か)

 かつてのキャンプを思い出す。
 仕事の終わった後は、恐怖を忘れるために多くの傭兵が酒におぼれたものだ。

 恭平自身は必要としていなかったが、友人に誘われて付き合ったことが幾度となくあった。
 そのおかげか、彼もはやうわばみと称される程、酒には強くなっている。

 男と女は、かがり火の近くに寄り、腰を落ち着かせたようだ。
 その近くにまで、ひときわ小さな影が寄り添い、嬉しそうに手足を動かしている。

(……子供?)

 大きなリングのような装飾品が、火の光を受けて鈍く輝いている。
 背丈からは背の低い女とも思われたが、その動きは子供のそれ、だ。

「……アハハハハハ!!」

 大柄な男の盛大な笑い声が、闇を切り裂いて恭平のもとへまで届いた。

 おおげさな仕草で、腹を抱えてみせた後、子供の頭をくしゃくしゃと撫で付ける。
 その横ではやはり、女がたおやかに手を口元にあてて笑っていた。

 その笑い声を目印にか、方々の林を揺らして、新たな影たちが姿を現した。

(……あいつは?)

 その中に、その女はいた。

 髪を片側だけ長く伸ばした、水色の髪をした女傭兵。
 名前は知らない。

 だが、その澄んだ横顔を、恭平は知っているような気がする。

 ひどくモヤモヤとした気持ちを抱えて、恭平はその場を後にした。
 何者かの視線を、その背中に感じながら。
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