石段上の戦い 中編
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扇状に広がる階段は、一段がまるで踊り場のように広い。
表面を覆う石畳を突き破って顔をだした岩に腰を掛け、キョウ子ははるか遠方を見渡した。
階段を挟むようにして続いていた壁面の片側が途切れ、地下二階がその姿をわずかにさらしている。
なんということだろう。雲さえも浮かぶ、広大な山岳地帯がそこには広がっていた。
階段からはその一帯を見下ろす形になるが、その最果ては雲に霞み、目を凝らしてもあらわではない。
「この光景を見ると、ここが遺跡の中だということを忘れてしまいそうになります」
言葉もなく、ただじっと遠くを見つめているキョウ子に、フォウトが声をかけた。
エゼやナミサと三人で何事か話し合っていたが、その話し合いも終わったのだろう。
他の同行者達――。
プリムラは疲れていたのか、巨大蟻にもたれかかるようにして仮眠をとっている。
階段の少し下のほうでは、モッカヴィルが槍を構え、哨戒役を担っていた。
「本当に、この中はどうなっているのかしら……まったく別の世界に来てしまったみたい」
フォウトの顔を見上げ、キョウ子は微笑む。
立っている時はフォウトがキョウ子を見上げなければならないが、岩に腰掛けたキョウ子の視線は低い。
大柄な身体でチョコンと岩に腰掛けている様は、実際以上にキョウ子の姿を小さく見せている。
「実際、別の世界かも知れません。島の地下にこれほどの空間があるとは」
キョウ子の言葉を受けて、「推論の一つですが」と前置きをしたフォウトがこたえる。
遺跡外から遺跡への出入りは全て魔法陣を介して行なわれる。
冒険者の多くは自然に、その遺跡は島の地下にあるものだと考えているが、そう断じる証拠はない。
「ふふ、そういう考え方もあるわねぇ♪
お話しは終わったみたいね、プリムラちゃんを起こすから進みましょうか?」
生徒の優秀な発言を褒める教師のような眼差しでフォウトを見、キョウ子は立ち上がる。
それから、ベッドと化している巨大蟻へと近づき、プリムラを揺り起こした。
「……ん、キョウ子さん。朝……?」
寝起きの弱いプリムラが、間の抜けた声をあげる。
「もう、ほら、シャキッとしてっ」
キョウ子はまだ眠たそうにしているプリムラの手を引いて立たせた。
その服に付いたしわを手で軽く叩くようにして伸ばし、準備をするようにうながす。
「あっ、ちょっと、待ってください。
実は、三人で話し合ったのですが、キョウ子さんたちにお願いが」
その様子を見て、フォウトがほんの少し慌てたように声をかけた。
テキパキと動くキョウ子を前に、申し出るタイミングを逸していたのだろう。
「あら、何かしら?」
首を傾げ「私達に出来ることなら」とキョウ子はフォウトの次の言葉を待つ。
「――私達と練習試合をしていただけませんか?」
一拍置いて、フォウトはそう告げた。
このペースで降りていては、下に着くころには夜になってしまう。
今日はまだ練習試合を行なっていなかった。せっかくの鍛錬の機会を逃すのは勿体無い。
キョウ子たちが練習試合をしていなければよいが、サードチェインの三人が集まって話していたのはこのことだった。
「どうでしょう? 不足はないと思うのですが」
もし練習試合をしていないのであれば、キョウ子たちにとってもよい話であるはずだった。
果たして、キョウ子の返事はどうであろうか。
「ふふ、いいわよ」
あっさりと快諾すると、キョウ子はプリムラにそのことを伝えた。
それを聞いて、眠そうに緩んでいたプリムラの眦が急に引き締まる。
「では、準備をして……十分後に此処で会いましょう♪」
不敵な笑みを浮かべ、キョウ子はプリムラと連れ立つと、その場から離れた岩陰に姿を消した。
つづきはこちら
島ではバレンタインも、ホワイトデーも2日に渡ってあるみたい。
ふふ、イベントがたくさんって嬉しいわねぇ♪
主催者のはからいか、無料でキャンディも渡せるようだけど――
ホワイトさんは、噂の彼女にキャンディを渡せるのかしら?
気になるところもたくさんねぇ♪
私もたくさんお礼をいただいて、とっても胸がいっぱいよぉ。
皆さんのこと、好きになっちゃいそうだわ♪
素敵なプレゼント♪