血の染み付いた手帳
しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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(06/15)
(06/15) |
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02120541 | [PR] |
05270045 | Day?? -アレ- |
05240215 | Day02 outer -篝火- |
林の中を駆けるも一興。
ぬかるんだ足元、道を塞ぐ木の枝、肌を裂く草葉の刃。
鉈の重さを持つナイフで、それらを薙ぎ払い、突き進む。
すると、道なきところに新たな道ができた。
踏みしめられた大地は、次の瞬間には新しい道となる。
それは、獣道のようなもの。
数多の獣たちが踏みしめて作るのが獣道ならば、
恭平が進む場所にできる道はなんと呼べばよいのだろう。
人間も、また、野獣。
ならば、それもまた獣道で正しいのか。
ただ、多くの人間たちが、
かつて己たちも野獣であったことを忘れてしまっただけだ。
長く苦しい戦いの果てに、恭平は失われた獣性をも取り戻している。
森の臭いは心地いい。
そこは恭平にとって、揺り篭のように心安らぐ場所であった。
手にした牙を巧みに操り、己の道を切り開いてゆく。
視界は悪い。
遺跡にも、夜が訪れていた。
されど、恭平の歩みに衰えは見られない。
彼は夜歩く者。
闇を恐れ足を竦めるような傭兵であったなら、
彼は、今、ここに存在することを許されていなかっただろう。
天に瞬くヒカリゴケの薄明かりを頼りに、不安定な足場を蹴って恭平は進む。
前へ――。
遺跡の闇が深いのであれば、そのさらに懐へと飛び込まなければならない。
恭平は遺跡を知らないに過ぎる。
彼は、遺跡を知らなくてはならない。
そうでなければ、この戦いを勝ち抜くことも難しいだろう。
情報の収集を優先させる。
耳を発達させたウサギにも似た臆病さが、彼を今日まで生きながらえさせてきたのだ。
先を行く冒険者の痕跡を見つけ、最適なルートを選択する。
または、すれ違う冒険者の会話を傍聴し、遺跡に関する情報を集めた。
とある冒険者は言った。
噂ではこの遺跡には莫大な財宝が眠っているらしい。
誰よりも先にそこへと辿り着いたなら、望むものが手に入るそうだ。
その冒険者は、それを狙ってこの遺跡へと辿り着いたのか。
(……財宝? くだらないな)
望むべきものもない恭平には、関係のない話だ。
彼の任務はゲリラの殲滅。
それ以上でもそれ以下でもないのだから。
(もしも、俺が手に入れたならば、何処かの海に捨ててしまおう。)
過ぎた力は、人を狂わせる。
自然の法則に逆らうことは身の破滅を招くのだと、経験から学んでいた。
財宝がどのようなものかは知らないが、ろくなものではあるまい。
かつて、与えられた力におぼれ、身を滅ぼしていった者たちがいた。
恭平もいずれはその末席に名前を連ねるのだろう。
だが、そうなるのは、彼だけでよい。
いつの頃からか、恭平にはそういった信念が芽生えていた。
夜の闇の中に思考は冴え、ここに恭平の目的がひとつ定められた。
遺跡に眠る宝物の破壊。
それは、けして優先順位の高い目的ではない。
だがしかし、そう思いながらも、避け得ぬ運命を恭平は感じていた。
遺跡の中に潜る限り、その宝物からは逃れられないのかも知れない。
(……道を間違えたか)
嫌な予感に、思索を中断して、周囲を見渡した。
どうも、予測とは違う場所へと、向かっているようだ。
複雑な遺跡内の地形が、恭平の感覚を少しずつ歪めていたらしい。
いつ頃からか、乱立する木立の中に、
紅よりも赤い、煌々とした花々が、花を咲かせているようになっていた。
(……しかし、美しい場所だ)
恭平にも、無駄を愛する心は存在する。
無害であるのならば、全ては美しいに越したことはない。
自らの手を介さない美は、彼にとっても好ましいものだった。
自らが労力を裂いてまで、手に入れようとは思わないものの、
速度を緩めるでもなく、花々の饗宴を楽しみながら、闇の中を駆けていく。
(……灯り?)
次第に花の密度が増していく折、恭平は先に揺らめく焔を見つけた。
ゆらゆらとゆらめく――赤。
闇に映え、木々に映るかがり火は、まるで花のように見えた。
そこに、人の気配がする。
歩む速度を緩め、風に揺れる木々のざわめきよりも静かに足を進める。
注意をして進まなければならない。
必要以上に警戒することもないが、何者かは推し量らなければならない。
損耗は避けたいのだから。
響くのは コンコン という乾いた音。
近づくにつれて、木々の香りの中に、ココナツの香りや花の香りが混じった。
どうやら、かがり火を焚いている人物が、食事の用意でもしているのだろう。
(……野営か)
このような場所にいるものだ、冒険者に違いあるまい。
時は夜更けも夜更け。
闇でさえも眠るのではないかと思えるかのような時間だ。
疲れた冒険者が、休みをとるべく火をおこしてもおかしくはない。
(……誰か、くる)
ガサガサ、と恭平とは反対側の林を揺らして、二つの影が焔に浮き出された。
よくよく見れば、かがり火の周囲に集まるものは一人や二人ではないらしい。
冒険者の集団なのか。
しかし、そこには統率された団のような結束は感じられない。
印象としては、酒場に集まる人々にも似た雑多な感があった。
現れた影は男と女。
ハンチングのような帽子を被った大男と、風に揺らめく布を身にまとったしなやかな女だ。
女のしなやかな足の運びと、対照的な、ここまで足音の聞こえそうな男の歩み。
声は聞き取れないが、唇の動きを読むに、酒をもってきたと言っているらしい。
(……宴会か)
かつてのキャンプを思い出す。
仕事の終わった後は、恐怖を忘れるために多くの傭兵が酒におぼれたものだ。
恭平自身は必要としていなかったが、友人に誘われて付き合ったことが幾度となくあった。
そのおかげか、彼もはやうわばみと称される程、酒には強くなっている。
男と女は、かがり火の近くに寄り、腰を落ち着かせたようだ。
その近くにまで、ひときわ小さな影が寄り添い、嬉しそうに手足を動かしている。
(……子供?)
大きなリングのような装飾品が、火の光を受けて鈍く輝いている。
背丈からは背の低い女とも思われたが、その動きは子供のそれ、だ。
「……アハハハハハ!!」
大柄な男の盛大な笑い声が、闇を切り裂いて恭平のもとへまで届いた。
おおげさな仕草で、腹を抱えてみせた後、子供の頭をくしゃくしゃと撫で付ける。
その横ではやはり、女がたおやかに手を口元にあてて笑っていた。
その笑い声を目印にか、方々の林を揺らして、新たな影たちが姿を現した。
(……あいつは?)
その中に、その女はいた。
髪を片側だけ長く伸ばした、水色の髪をした女傭兵。
名前は知らない。
だが、その澄んだ横顔を、恭平は知っているような気がする。
ひどくモヤモヤとした気持ちを抱えて、恭平はその場を後にした。
何者かの視線を、その背中に感じながら。
ぬかるんだ足元、道を塞ぐ木の枝、肌を裂く草葉の刃。
鉈の重さを持つナイフで、それらを薙ぎ払い、突き進む。
すると、道なきところに新たな道ができた。
踏みしめられた大地は、次の瞬間には新しい道となる。
それは、獣道のようなもの。
数多の獣たちが踏みしめて作るのが獣道ならば、
恭平が進む場所にできる道はなんと呼べばよいのだろう。
人間も、また、野獣。
ならば、それもまた獣道で正しいのか。
ただ、多くの人間たちが、
かつて己たちも野獣であったことを忘れてしまっただけだ。
長く苦しい戦いの果てに、恭平は失われた獣性をも取り戻している。
森の臭いは心地いい。
そこは恭平にとって、揺り篭のように心安らぐ場所であった。
手にした牙を巧みに操り、己の道を切り開いてゆく。
視界は悪い。
遺跡にも、夜が訪れていた。
されど、恭平の歩みに衰えは見られない。
彼は夜歩く者。
闇を恐れ足を竦めるような傭兵であったなら、
彼は、今、ここに存在することを許されていなかっただろう。
天に瞬くヒカリゴケの薄明かりを頼りに、不安定な足場を蹴って恭平は進む。
前へ――。
遺跡の闇が深いのであれば、そのさらに懐へと飛び込まなければならない。
恭平は遺跡を知らないに過ぎる。
彼は、遺跡を知らなくてはならない。
そうでなければ、この戦いを勝ち抜くことも難しいだろう。
情報の収集を優先させる。
耳を発達させたウサギにも似た臆病さが、彼を今日まで生きながらえさせてきたのだ。
先を行く冒険者の痕跡を見つけ、最適なルートを選択する。
または、すれ違う冒険者の会話を傍聴し、遺跡に関する情報を集めた。
とある冒険者は言った。
噂ではこの遺跡には莫大な財宝が眠っているらしい。
誰よりも先にそこへと辿り着いたなら、望むものが手に入るそうだ。
その冒険者は、それを狙ってこの遺跡へと辿り着いたのか。
(……財宝? くだらないな)
望むべきものもない恭平には、関係のない話だ。
彼の任務はゲリラの殲滅。
それ以上でもそれ以下でもないのだから。
(もしも、俺が手に入れたならば、何処かの海に捨ててしまおう。)
過ぎた力は、人を狂わせる。
自然の法則に逆らうことは身の破滅を招くのだと、経験から学んでいた。
財宝がどのようなものかは知らないが、ろくなものではあるまい。
かつて、与えられた力におぼれ、身を滅ぼしていった者たちがいた。
恭平もいずれはその末席に名前を連ねるのだろう。
だが、そうなるのは、彼だけでよい。
いつの頃からか、恭平にはそういった信念が芽生えていた。
夜の闇の中に思考は冴え、ここに恭平の目的がひとつ定められた。
遺跡に眠る宝物の破壊。
それは、けして優先順位の高い目的ではない。
だがしかし、そう思いながらも、避け得ぬ運命を恭平は感じていた。
遺跡の中に潜る限り、その宝物からは逃れられないのかも知れない。
(……道を間違えたか)
嫌な予感に、思索を中断して、周囲を見渡した。
どうも、予測とは違う場所へと、向かっているようだ。
複雑な遺跡内の地形が、恭平の感覚を少しずつ歪めていたらしい。
いつ頃からか、乱立する木立の中に、
紅よりも赤い、煌々とした花々が、花を咲かせているようになっていた。
(……しかし、美しい場所だ)
恭平にも、無駄を愛する心は存在する。
無害であるのならば、全ては美しいに越したことはない。
自らの手を介さない美は、彼にとっても好ましいものだった。
自らが労力を裂いてまで、手に入れようとは思わないものの、
速度を緩めるでもなく、花々の饗宴を楽しみながら、闇の中を駆けていく。
(……灯り?)
次第に花の密度が増していく折、恭平は先に揺らめく焔を見つけた。
ゆらゆらとゆらめく――赤。
闇に映え、木々に映るかがり火は、まるで花のように見えた。
そこに、人の気配がする。
歩む速度を緩め、風に揺れる木々のざわめきよりも静かに足を進める。
注意をして進まなければならない。
必要以上に警戒することもないが、何者かは推し量らなければならない。
損耗は避けたいのだから。
響くのは コンコン という乾いた音。
近づくにつれて、木々の香りの中に、ココナツの香りや花の香りが混じった。
どうやら、かがり火を焚いている人物が、食事の用意でもしているのだろう。
(……野営か)
このような場所にいるものだ、冒険者に違いあるまい。
時は夜更けも夜更け。
闇でさえも眠るのではないかと思えるかのような時間だ。
疲れた冒険者が、休みをとるべく火をおこしてもおかしくはない。
(……誰か、くる)
ガサガサ、と恭平とは反対側の林を揺らして、二つの影が焔に浮き出された。
よくよく見れば、かがり火の周囲に集まるものは一人や二人ではないらしい。
冒険者の集団なのか。
しかし、そこには統率された団のような結束は感じられない。
印象としては、酒場に集まる人々にも似た雑多な感があった。
現れた影は男と女。
ハンチングのような帽子を被った大男と、風に揺らめく布を身にまとったしなやかな女だ。
女のしなやかな足の運びと、対照的な、ここまで足音の聞こえそうな男の歩み。
声は聞き取れないが、唇の動きを読むに、酒をもってきたと言っているらしい。
(……宴会か)
かつてのキャンプを思い出す。
仕事の終わった後は、恐怖を忘れるために多くの傭兵が酒におぼれたものだ。
恭平自身は必要としていなかったが、友人に誘われて付き合ったことが幾度となくあった。
そのおかげか、彼もはやうわばみと称される程、酒には強くなっている。
男と女は、かがり火の近くに寄り、腰を落ち着かせたようだ。
その近くにまで、ひときわ小さな影が寄り添い、嬉しそうに手足を動かしている。
(……子供?)
大きなリングのような装飾品が、火の光を受けて鈍く輝いている。
背丈からは背の低い女とも思われたが、その動きは子供のそれ、だ。
「……アハハハハハ!!」
大柄な男の盛大な笑い声が、闇を切り裂いて恭平のもとへまで届いた。
おおげさな仕草で、腹を抱えてみせた後、子供の頭をくしゃくしゃと撫で付ける。
その横ではやはり、女がたおやかに手を口元にあてて笑っていた。
その笑い声を目印にか、方々の林を揺らして、新たな影たちが姿を現した。
(……あいつは?)
その中に、その女はいた。
髪を片側だけ長く伸ばした、水色の髪をした女傭兵。
名前は知らない。
だが、その澄んだ横顔を、恭平は知っているような気がする。
ひどくモヤモヤとした気持ちを抱えて、恭平はその場を後にした。
何者かの視線を、その背中に感じながら。
05210116 | Day03 -草人- |
-0-
行く道は二手に分かれていた。
味気ないパンくずを頬張りながら、恭平はどちらに進むべきかを考える。
二匹の黒猫――そして冒険者らしき一匹の黒猫――との戦いは、
予想以上に激しくなり、恭平に大きな疲労を残していた。
この島にたどり着いてからというもの、どうも身体が重たく感じられる。
事実、重病に冒されているのかと思いたくなるほど、身体のキレが鈍かった。
その為、戦いではかなりの傷を負ってしまったのだが、
気が付けば身体の傷は治り、その痕跡は衣類にこびりついた血痕だけとなっている。
不思議なことと言えば、もうひとつ――。
現在までに探索した内容などを記そうと引っ張り出した地図には、
いつの間にか新しいエリアが描き足されていた。
任務とともに送られてきたときには、ほとんど白紙だったにも関わらず、だ。
どうやら、遺跡の中にいる誰かが、新しい場所に到達した時点で、
周辺の地形が自動的に地図上へと浮き上がる仕組みらしい。
それがどのような技術によるものかは分からないが、
苦もなく情報が手に入るというのは歓迎すべきことだろう。
そして、地図上には行き先の状況と、その周辺で活動をしている冒険者の名前が記されている。
現在のエリアには「多」の文字が。一定人数を超えれば、正確には数えないということか。
しかし、その地図のエリア部に触れることによって、
どのような冒険者がそこに居て、何を経験したのか、それさえも知ることができた。
つまり――。
「……俺の居場所も、実力も知られている……ということ、か」
しっかりと租借したパンくずを飲み込んで、恭平はひとりごちた。
隠密行動を身上とする恭平にとってこの地図は、便利な道具であるとともに、忌々しい代物でもあるようだ。
なおさら、周囲に気を配って行動をしなければならない。
探索行は長い時間を必要とするだろう。
だからこそ、遺跡内での無駄な損耗は避けたかった。
「さて……」
それはさておいて、今の問題はどちらへと進むか、だ。
大広間の両端に開けた回廊の先は眩い明かりに包まれており、
その先が遺跡の外へと続いているかのような錯覚を感じさせる。
実際には、平原へと続いているらしい。
これもどのような技術によるものか、遺跡の中には大自然があった。
黒猫たち動物も、そうした遺跡の不思議によって生きながらえてきたのだろう。
さらに言うならば、遺跡の中だからこその進化を遂げたものもいるかもしれない。
まだ見ぬ怪異を思い浮かべ、恭平は心の帯を引き締めた。
彼は今、戦場にいるのだ。
「あちらは右足の方向か……なら、こっちだな」
地図を見ながら、行く先がどこへ続くのかを確認する。
昨日のうちに大勢の冒険者が先へと進んだらしく、周囲のエリアはほぼ確認ができた。
それによると片側の道は、既に取得したもうひとつの魔方陣へと続いているだけだ。
それならば、新しい方向へと進むべきだろう。
「さあ……状況開始、だ」
薄い笑みを浮かべて恭平は立ち上がり、慎重な足取りで大広間を後にした。
-1-
恭平の歩みは速い。
体重を感じさせない足取りで平原を踏破していく。
その歩法はかつて密林で身につけたものだ。
たとえ敷き詰められた枯葉のうえを歩いたとして、足音ひとつたてないだろう。
そういう歩き方をしている。
音をたてず、敵から自分の居場所を察知されることもない。
それは密林に暮らす獣たちから、恭平が習い取った技術だった。
魔方陣エリアを出立して数時間。
すでに2エリアを行き過ごし、3エリア目の平原に差し掛かろうとしている。
この辺りには冒険者達も多い。
「……ちっ」
新しい平原へと繋がる地点を前にして、恭平は足を止めた。
前方で幾つもの人影がたむろしている。
友好的かどうかも分からない相手と不用意に接触をするべきではなかった。
「もさもさ」
「……もっさぁ?」
緑色の肌をした彼らもはたして冒険者なのであろうか。
不思議な言語で何事かを相談しているようだ。
近くの草陰に身を潜め、恭平はその動向をさぐる。
「もっさ、もっさ!」
「もっさぁ!!」
話し合いも佳境なのか、聞き耳をたてずとも男たちの話し声は耳に届いてきた。
無個性な野太い声だ。身振り手振りを交えながら、何事かを言い争っている。
「もさ、もさ!」
「もさ……」
「さもさー……」
ひときわ大柄な男の一声で場が沈黙した。
どうやら、そいつがリーダー格らしい。
「もさ。もさもさ」
リーダーの鶴の一声で、やたらとマッチョイズムな男たちの話し合いは終わったようだ。
お互い頷きあうと、示し合わせたようにそれぞれ違う方向へと駆け出していく。
遺跡外の市場に売られていた「美味しい草」にも似た緑色の髪の毛が、
走ることによって生じる風圧に揺れていた。
「……データにはない、な」
話を聞きながら地図を広げ、冒険者たちを洗ってみたがそれらしき人物は居なかった。
緑色の肌の冒険者は数名見当たったが、外見は似ても似つかない。
そもそも、男たちはどれも似たような外見をしていなかったか。
もしかすると、
「奴らも、遺跡の守護者だったか……」
接触を避けて正解だったようだ。
少なくとも無駄な争い、無駄な損耗は避けることができた。
「……行こう」
慎重に草陰から身を躍らせて、恭平は静かに走り出す。
それは、先ほどの緑色をした男が一人、駆け出していった方向だ。
こちらがその後を追う形になるが、どこで出くわすかは分からない。
道は隣の平原エリアへと続いている。
「……用心が必要だな」
腰に下げたナイフを確認して、恭平は新たなエリアへと足を踏み入れた。
-2-
草原に吹く穏やかな風には、潰れた草の汁にも似た臭いが混じっている。
強烈な青臭さに恭平は一瞬顔をしかめ、すぐに平静を取り戻した。
臭いの元は、草原の至るところに散らばった緑色の肉片だ。
否、肉に見えるそれは、よくよく見れば植物の組織体であるらしい。
それが、草原の其処此処にベッタリとした液体を撒き散らしながら落ちている。
どれも落とされてから半日以上が経過していた。
「血痕……」
緑片の傍らに残されたそれは、血の赤。
遺跡へと侵入した冒険者が傷ついた痕跡だろう。
だとすれば、ここでは戦闘が起こっていたということか。
「いったい、何と戦えば……こんなことになるんだ?」
植物に襲われたとでもいうのだろうか。
恭平の常識には人間を襲う植物など存在しない。
しかし、この遺跡の中ならば、それも在り得るのか。
「決め付けるのは危険だな……」
恭平は、既に己の知識だけで測ることのできない世界へと足を踏み入れている。
それに納得しているわけではないが、直感がそう告げていた。
安易に判断すれば、命取りになるだろう。
「……毒は、ないか」
ペロリ と指先に付けた緑色の液体を舌で舐めとり、じっくりと味わう。
それはキャベツにも似た味わい。
毒がないのであれば、料理すれば意外といける口かもしれない。
「好き好んで食べたいものでもないが、な」
そこまで考えて、恭平は苦笑した。
食料に困れば、得体の知れないものを口にしなければならないこともあるだろう。
だが、今はその時ではない。
「……ん?」
無造作に手をズボンに擦り付けて、恭平がその場を離れようとしたとき、
風に混じる草の臭いが強まった。
「ちっ……現物の御登場か……」
眼光鋭く、ナイフを抜き放つ。
臭いは近い――そして、近づいてくる気配は二つ。
戦士の勘は、警鐘を鳴らし続けている。
行く道は二手に分かれていた。
味気ないパンくずを頬張りながら、恭平はどちらに進むべきかを考える。
二匹の黒猫――そして冒険者らしき一匹の黒猫――との戦いは、
予想以上に激しくなり、恭平に大きな疲労を残していた。
この島にたどり着いてからというもの、どうも身体が重たく感じられる。
事実、重病に冒されているのかと思いたくなるほど、身体のキレが鈍かった。
その為、戦いではかなりの傷を負ってしまったのだが、
気が付けば身体の傷は治り、その痕跡は衣類にこびりついた血痕だけとなっている。
不思議なことと言えば、もうひとつ――。
現在までに探索した内容などを記そうと引っ張り出した地図には、
いつの間にか新しいエリアが描き足されていた。
任務とともに送られてきたときには、ほとんど白紙だったにも関わらず、だ。
どうやら、遺跡の中にいる誰かが、新しい場所に到達した時点で、
周辺の地形が自動的に地図上へと浮き上がる仕組みらしい。
それがどのような技術によるものかは分からないが、
苦もなく情報が手に入るというのは歓迎すべきことだろう。
そして、地図上には行き先の状況と、その周辺で活動をしている冒険者の名前が記されている。
現在のエリアには「多」の文字が。一定人数を超えれば、正確には数えないということか。
しかし、その地図のエリア部に触れることによって、
どのような冒険者がそこに居て、何を経験したのか、それさえも知ることができた。
つまり――。
「……俺の居場所も、実力も知られている……ということ、か」
しっかりと租借したパンくずを飲み込んで、恭平はひとりごちた。
隠密行動を身上とする恭平にとってこの地図は、便利な道具であるとともに、忌々しい代物でもあるようだ。
なおさら、周囲に気を配って行動をしなければならない。
探索行は長い時間を必要とするだろう。
だからこそ、遺跡内での無駄な損耗は避けたかった。
「さて……」
それはさておいて、今の問題はどちらへと進むか、だ。
大広間の両端に開けた回廊の先は眩い明かりに包まれており、
その先が遺跡の外へと続いているかのような錯覚を感じさせる。
実際には、平原へと続いているらしい。
これもどのような技術によるものか、遺跡の中には大自然があった。
黒猫たち動物も、そうした遺跡の不思議によって生きながらえてきたのだろう。
さらに言うならば、遺跡の中だからこその進化を遂げたものもいるかもしれない。
まだ見ぬ怪異を思い浮かべ、恭平は心の帯を引き締めた。
彼は今、戦場にいるのだ。
「あちらは右足の方向か……なら、こっちだな」
地図を見ながら、行く先がどこへ続くのかを確認する。
昨日のうちに大勢の冒険者が先へと進んだらしく、周囲のエリアはほぼ確認ができた。
それによると片側の道は、既に取得したもうひとつの魔方陣へと続いているだけだ。
それならば、新しい方向へと進むべきだろう。
「さあ……状況開始、だ」
薄い笑みを浮かべて恭平は立ち上がり、慎重な足取りで大広間を後にした。
-1-
恭平の歩みは速い。
体重を感じさせない足取りで平原を踏破していく。
その歩法はかつて密林で身につけたものだ。
たとえ敷き詰められた枯葉のうえを歩いたとして、足音ひとつたてないだろう。
そういう歩き方をしている。
音をたてず、敵から自分の居場所を察知されることもない。
それは密林に暮らす獣たちから、恭平が習い取った技術だった。
魔方陣エリアを出立して数時間。
すでに2エリアを行き過ごし、3エリア目の平原に差し掛かろうとしている。
この辺りには冒険者達も多い。
「……ちっ」
新しい平原へと繋がる地点を前にして、恭平は足を止めた。
前方で幾つもの人影がたむろしている。
友好的かどうかも分からない相手と不用意に接触をするべきではなかった。
「もさもさ」
「……もっさぁ?」
緑色の肌をした彼らもはたして冒険者なのであろうか。
不思議な言語で何事かを相談しているようだ。
近くの草陰に身を潜め、恭平はその動向をさぐる。
「もっさ、もっさ!」
「もっさぁ!!」
話し合いも佳境なのか、聞き耳をたてずとも男たちの話し声は耳に届いてきた。
無個性な野太い声だ。身振り手振りを交えながら、何事かを言い争っている。
「もさ、もさ!」
「もさ……」
「さもさー……」
ひときわ大柄な男の一声で場が沈黙した。
どうやら、そいつがリーダー格らしい。
「もさ。もさもさ」
リーダーの鶴の一声で、やたらとマッチョイズムな男たちの話し合いは終わったようだ。
お互い頷きあうと、示し合わせたようにそれぞれ違う方向へと駆け出していく。
遺跡外の市場に売られていた「美味しい草」にも似た緑色の髪の毛が、
走ることによって生じる風圧に揺れていた。
「……データにはない、な」
話を聞きながら地図を広げ、冒険者たちを洗ってみたがそれらしき人物は居なかった。
緑色の肌の冒険者は数名見当たったが、外見は似ても似つかない。
そもそも、男たちはどれも似たような外見をしていなかったか。
もしかすると、
「奴らも、遺跡の守護者だったか……」
接触を避けて正解だったようだ。
少なくとも無駄な争い、無駄な損耗は避けることができた。
「……行こう」
慎重に草陰から身を躍らせて、恭平は静かに走り出す。
それは、先ほどの緑色をした男が一人、駆け出していった方向だ。
こちらがその後を追う形になるが、どこで出くわすかは分からない。
道は隣の平原エリアへと続いている。
「……用心が必要だな」
腰に下げたナイフを確認して、恭平は新たなエリアへと足を踏み入れた。
-2-
草原に吹く穏やかな風には、潰れた草の汁にも似た臭いが混じっている。
強烈な青臭さに恭平は一瞬顔をしかめ、すぐに平静を取り戻した。
臭いの元は、草原の至るところに散らばった緑色の肉片だ。
否、肉に見えるそれは、よくよく見れば植物の組織体であるらしい。
それが、草原の其処此処にベッタリとした液体を撒き散らしながら落ちている。
どれも落とされてから半日以上が経過していた。
「血痕……」
緑片の傍らに残されたそれは、血の赤。
遺跡へと侵入した冒険者が傷ついた痕跡だろう。
だとすれば、ここでは戦闘が起こっていたということか。
「いったい、何と戦えば……こんなことになるんだ?」
植物に襲われたとでもいうのだろうか。
恭平の常識には人間を襲う植物など存在しない。
しかし、この遺跡の中ならば、それも在り得るのか。
「決め付けるのは危険だな……」
恭平は、既に己の知識だけで測ることのできない世界へと足を踏み入れている。
それに納得しているわけではないが、直感がそう告げていた。
安易に判断すれば、命取りになるだろう。
「……毒は、ないか」
ペロリ と指先に付けた緑色の液体を舌で舐めとり、じっくりと味わう。
それはキャベツにも似た味わい。
毒がないのであれば、料理すれば意外といける口かもしれない。
「好き好んで食べたいものでもないが、な」
そこまで考えて、恭平は苦笑した。
食料に困れば、得体の知れないものを口にしなければならないこともあるだろう。
だが、今はその時ではない。
「……ん?」
無造作に手をズボンに擦り付けて、恭平がその場を離れようとしたとき、
風に混じる草の臭いが強まった。
「ちっ……現物の御登場か……」
眼光鋭く、ナイフを抜き放つ。
臭いは近い――そして、近づいてくる気配は二つ。
戦士の勘は、警鐘を鳴らし続けている。
05210110 | Day02 -黒猫- |
-2-
「……猫?」
気配を感じて、ゆらりと立ち上がると、恭平の背後には一匹の黒猫が立っていた。
こんなところに、猫? 恭平の頭に疑問がもたげる。
少なくとも、このような遺跡に似つかわしい生き物ではない。
そう、猫という生き物は、もっと都会の雑踏の中に紛れているべきではないのか。
はたまた、野生種の猫なのだろうか。
なんにせよ、その瞳には知性が感じられる。
まったくもって、謎の猫だ。
「……」
猫は鳴きもせず、恭平を見上げている。
可愛げも何もあったものではない。
ただ、知性ある瞳で恭平を見据えている。
「……やるのか?」
その視線に宿った闘志を肌に感じて、恭平は問いかけた。
「……」
猫は何も応えない。
ただ、その尾をピンと張り詰めて、身体を身震いさせた。
その動作は、承諾とも思える。
猫は爪を出し、そろりそろりと恭平の周囲を回り始めた。
「覚悟はいいか?」
猫の動きを追いながら恭平。
ニヤリ 猫は頬を緩ませ、笑みを浮かべた。
「そうか……俺も、できてる」
恭平もまた、野性的な笑みを浮かべて、ナイフを引き抜いた。
一匹と一人は、薄闇の中で対峙する。
-3-
「「……」」
一匹と一人は無言のまま同時に動いた。
黒猫は跳躍し、爪で恭平の喉を狙う。
最初から大穴狙い。一撃で勝負を決めるつもりなのか。
しかし、瞬時にその動きを読み取ってみせた恭平に、その爪は届かなかった。
膝をまげ、大地に伏せた恭平の上を黒猫が通過する。
その腹部をナイフで切りつけた。
腹筋のねじれを利用して、黒猫はその動きをかわす。
いや、当たった。しかし、浅い。
シュタッ
着地した黒猫はつけられたばかりの傷口をその舌で舐め、応急手当の代わりとした。
その瞳が爛々と輝いている。
小さな一撃は、火に油を注ぐ結果となったらしい。
「……ッ」
猫は瞳をカッと見開いた。
それは、幻惑の瞳。
正面から視線を受けた恭平の意識が、瞬時の揺らぎをみせる。
かつてない経験だ。
血と油と鉄しか知らない傭兵に、それがいかなるものであるかなど想像もつくまい。
ただ、事実、恭平の動きが瞬間、妨げられた。
それしか、分からない。
その代価は、さらなる傷跡だ。
太ももを走る静脈を鋭利な爪に切り裂かれ、鮮血が流れた。
「ち……」
舌打ちをして恭平は、背中合わせに崩れ落ちる黒猫へと振り返った。
回避動作が間に合わないと悟った恭平が繰り出した一撃は、
やはり、黒猫の前足に傷を残していた。
深い。
黒猫の前足からは白い骨が覗いている。
神経を切断されたためか、黒猫は前足を引きずるようにして、恭平へと向き直った。
「……ッ」
後ろ足で跳躍。
負傷した前足に頼らず、黒猫は恭平に肉薄した。
ナイフを逆手に構え、恭平は黒猫を迎え撃つ。
一撃。
繰り出されたナイフは、黒猫の表皮を削った。
身を縮め、皮一枚で攻撃をかわした黒猫は、繰り出された左腕に爪をたてる。
引き戻された左腕に深く爪を立てぶらさがった黒猫は、まるで鉄棒のように恭平の腕を使い、くるりと宙返りした。
尾を天に向けて、さらに宙を舞いながら、黒猫は恭平の頬に引っかき傷を残した。
そのままの勢いで恭平の背を越し、肩口を蹴って距離をとる。
それは、安全な距離であるかのように思われた。
再び一匹と一人は背中合わせに向き合う形となる。
仕切りなおし。
先ほどの攻防を優位に終えたことから、黒猫が油断していたことは否めない。
「……急所ははずしてやる」
黒猫の着地と同時、恭平は後ろ向きに跳躍していた。
後ろ手に構えた短剣は、黒猫を捕らえている。
全力の跳躍と、重力に引かれた自由落下。
背中から地面に倒れこみながら、手にしたナイフを黒猫の後ろ足に突き立てた。
太ももを貫通したナイフは、黒猫の後ろ足を大地に縫い付ける。
倒れたままの勢いで、ナイフを支点に後転。
恭平は黒猫の眼前に着地した。
「まだ、やるか?」
鼻先に顔を突きつけて、恭平は問いかける。
「……」
返答は爪の一撃。
恭平の頬が二重に抉られ、顔が朱に染まる。
「いい、返事だ」
手刀を一閃。
それは正確に、黒猫の首筋を捉えていた。
一瞬の断絶が、黒猫の意識を奪う。
「……悪いな、猫。いい勝負だった……」
意識を失った黒猫の太ももを、ちぎった布できつくしばり止血する。
十分に血が止まったことを確認して、ナイフを引き抜いた。
肉を断つ感触がする。
この怪我ならば、命に別状はないだろう。
以前のように歩けるか、その見立ては五分といったところだが。
「……?」
黒猫の足などへ無造作に手当てしていた恭平の視線が不思議なものを映した。
最初に与えた傷跡がすでにかさぶたへと変容している。
戦いの最中にここまで治癒したのだとすれば、驚異的な回復力だ。
そして、恭平自身、すでに血を流していないことに気づく。
これは、いったいなんなのだろうか。
遺跡の中に入ってからというもの、さまざまな違和感を感じていたが、これにも関係があるのだろうか。
考えてみるが、答えを知ることはできない。
だが、これならば黒猫もまた、以前と同じよう元気となるだろう。
「また、な」
自身にも手早く簡潔な手当てを済ませ、恭平はその場を後にした。
任務は続いている。早く、先に進まねばならない。
「……猫?」
気配を感じて、ゆらりと立ち上がると、恭平の背後には一匹の黒猫が立っていた。
こんなところに、猫? 恭平の頭に疑問がもたげる。
少なくとも、このような遺跡に似つかわしい生き物ではない。
そう、猫という生き物は、もっと都会の雑踏の中に紛れているべきではないのか。
はたまた、野生種の猫なのだろうか。
なんにせよ、その瞳には知性が感じられる。
まったくもって、謎の猫だ。
「……」
猫は鳴きもせず、恭平を見上げている。
可愛げも何もあったものではない。
ただ、知性ある瞳で恭平を見据えている。
「……やるのか?」
その視線に宿った闘志を肌に感じて、恭平は問いかけた。
「……」
猫は何も応えない。
ただ、その尾をピンと張り詰めて、身体を身震いさせた。
その動作は、承諾とも思える。
猫は爪を出し、そろりそろりと恭平の周囲を回り始めた。
「覚悟はいいか?」
猫の動きを追いながら恭平。
ニヤリ 猫は頬を緩ませ、笑みを浮かべた。
「そうか……俺も、できてる」
恭平もまた、野性的な笑みを浮かべて、ナイフを引き抜いた。
一匹と一人は、薄闇の中で対峙する。
-3-
「「……」」
一匹と一人は無言のまま同時に動いた。
黒猫は跳躍し、爪で恭平の喉を狙う。
最初から大穴狙い。一撃で勝負を決めるつもりなのか。
しかし、瞬時にその動きを読み取ってみせた恭平に、その爪は届かなかった。
膝をまげ、大地に伏せた恭平の上を黒猫が通過する。
その腹部をナイフで切りつけた。
腹筋のねじれを利用して、黒猫はその動きをかわす。
いや、当たった。しかし、浅い。
シュタッ
着地した黒猫はつけられたばかりの傷口をその舌で舐め、応急手当の代わりとした。
その瞳が爛々と輝いている。
小さな一撃は、火に油を注ぐ結果となったらしい。
「……ッ」
猫は瞳をカッと見開いた。
それは、幻惑の瞳。
正面から視線を受けた恭平の意識が、瞬時の揺らぎをみせる。
かつてない経験だ。
血と油と鉄しか知らない傭兵に、それがいかなるものであるかなど想像もつくまい。
ただ、事実、恭平の動きが瞬間、妨げられた。
それしか、分からない。
その代価は、さらなる傷跡だ。
太ももを走る静脈を鋭利な爪に切り裂かれ、鮮血が流れた。
「ち……」
舌打ちをして恭平は、背中合わせに崩れ落ちる黒猫へと振り返った。
回避動作が間に合わないと悟った恭平が繰り出した一撃は、
やはり、黒猫の前足に傷を残していた。
深い。
黒猫の前足からは白い骨が覗いている。
神経を切断されたためか、黒猫は前足を引きずるようにして、恭平へと向き直った。
「……ッ」
後ろ足で跳躍。
負傷した前足に頼らず、黒猫は恭平に肉薄した。
ナイフを逆手に構え、恭平は黒猫を迎え撃つ。
一撃。
繰り出されたナイフは、黒猫の表皮を削った。
身を縮め、皮一枚で攻撃をかわした黒猫は、繰り出された左腕に爪をたてる。
引き戻された左腕に深く爪を立てぶらさがった黒猫は、まるで鉄棒のように恭平の腕を使い、くるりと宙返りした。
尾を天に向けて、さらに宙を舞いながら、黒猫は恭平の頬に引っかき傷を残した。
そのままの勢いで恭平の背を越し、肩口を蹴って距離をとる。
それは、安全な距離であるかのように思われた。
再び一匹と一人は背中合わせに向き合う形となる。
仕切りなおし。
先ほどの攻防を優位に終えたことから、黒猫が油断していたことは否めない。
「……急所ははずしてやる」
黒猫の着地と同時、恭平は後ろ向きに跳躍していた。
後ろ手に構えた短剣は、黒猫を捕らえている。
全力の跳躍と、重力に引かれた自由落下。
背中から地面に倒れこみながら、手にしたナイフを黒猫の後ろ足に突き立てた。
太ももを貫通したナイフは、黒猫の後ろ足を大地に縫い付ける。
倒れたままの勢いで、ナイフを支点に後転。
恭平は黒猫の眼前に着地した。
「まだ、やるか?」
鼻先に顔を突きつけて、恭平は問いかける。
「……」
返答は爪の一撃。
恭平の頬が二重に抉られ、顔が朱に染まる。
「いい、返事だ」
手刀を一閃。
それは正確に、黒猫の首筋を捉えていた。
一瞬の断絶が、黒猫の意識を奪う。
「……悪いな、猫。いい勝負だった……」
意識を失った黒猫の太ももを、ちぎった布できつくしばり止血する。
十分に血が止まったことを確認して、ナイフを引き抜いた。
肉を断つ感触がする。
この怪我ならば、命に別状はないだろう。
以前のように歩けるか、その見立ては五分といったところだが。
「……?」
黒猫の足などへ無造作に手当てしていた恭平の視線が不思議なものを映した。
最初に与えた傷跡がすでにかさぶたへと変容している。
戦いの最中にここまで治癒したのだとすれば、驚異的な回復力だ。
そして、恭平自身、すでに血を流していないことに気づく。
これは、いったいなんなのだろうか。
遺跡の中に入ってからというもの、さまざまな違和感を感じていたが、これにも関係があるのだろうか。
考えてみるが、答えを知ることはできない。
だが、これならば黒猫もまた、以前と同じよう元気となるだろう。
「また、な」
自身にも手早く簡潔な手当てを済ませ、恭平はその場を後にした。
任務は続いている。早く、先に進まねばならない。
05200023 | Day03 「言い訳」 |
凄く感じが悪くなってしまったorz
今回のミス;
>>移動のミス
キャラの侵入位置を間違えていた為、移動に失敗。
日記との整合性がおかしくなりましたが、気にせず続けます。
>>コミュメッセのミス
【レンタル宣言】様における
恭平「仲良くして貰う必要はない。だが、宜しく頼む」
という発言は、【傭兵たちの集い】様、向けでした。
誤爆してしまい、申し訳ありません。
以上二点、言い訳でした。
移動は間違えたものの、敵は想定通りで良かった……。
それと、今日から恭平にも絵が付きます。
![](http://file.kyoukosan.blog.shinobi.jp/Img/1179420325/)
絵師は【火影の花】ティカティカ(449)PL様。
前期で、チンチェロさん、茉莉さんと並ぶ、異境キャラとして大好きでした。
今期もよろしくお願いいたします。
今回のミス;
>>移動のミス
キャラの侵入位置を間違えていた為、移動に失敗。
日記との整合性がおかしくなりましたが、気にせず続けます。
>>コミュメッセのミス
【レンタル宣言】様における
恭平「仲良くして貰う必要はない。だが、宜しく頼む」
という発言は、【傭兵たちの集い】様、向けでした。
誤爆してしまい、申し訳ありません。
以上二点、言い訳でした。
移動は間違えたものの、敵は想定通りで良かった……。
それと、今日から恭平にも絵が付きます。
絵師は【火影の花】ティカティカ(449)PL様。
前期で、チンチェロさん、茉莉さんと並ぶ、異境キャラとして大好きでした。
今期もよろしくお願いいたします。