血の染み付いた手帳
しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
(11/09)
(10/18)
(07/16)
(06/15)
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02040153 | [PR] |
09030046 | Day10 -鳥篭- |
-0-
酒を酌み交わす約束を交わして、恭平は先に魔方陣へと足を進めた。
目指す魔法陣の形を思い浮かべると、いつもの浮遊感に身体が包まれる。
そして、恭平を見ていた女の姿が歪み、その内に姿が掻き消える。
残されたのは薄暗い遺跡の壁と、閉鎖空間にしては澱んでいない風の流れ。
否、女が消えたのではなく、恭平が移動したのだ。
恭平は再び、遺跡の中にあった。
「……く。」
最初にしては随分と軽減されたが、理由のない頭痛が恭平を悩ませる。
魔方陣による転送というシステムに、なんらかの問題があるのだろう。
痛みはすぐに消え、恭平は歩き出した。
目指すのはシャルロットと名乗った死に損ないの待つ、山岳地帯だ。
一部、不明な道のりはあるものの、その途中まではほぼ頭の中に叩き込んである。
穴ぼこだらけの回廊さえ迷わずに抜けられたなら、そこに辿り着くことができるだろう。
何度となく通った最初の山岳地帯を抜ける。
以前、無理やり押し通った断崖などは、町にいる間に仕入れた迂回路の情報をもとに回避した。
頭上を旋回する小鷹や、岩に擬態した怪物の目を逃れて、慎重に進んでいく。
いつしか、山岳地帯を抜け、恭平は平原に到達していた。
「……。」
木陰や草の繁みに隠れるようにして進む。
何人かの冒険者や人型植物たちが恭平の眼前を通り過ぎて行ったが、気付かれることもない。
順調に進んでいる。これならばすぐにもあの死に損ないと再び対峙することも適うだろう。
しかし、勝つ算段は見つかっていない。
単純な戦力の差で、恭平は敗れていた。
相手が人間ならば、策を講じることもできただろう。
まだしも、他の怪物であるならば、何らかの手段もあったかもしれない。
「奴は、強い……。」
何かを奪う為にある少女は、執念に縛られていた。
妄執は力となり、彼女を生に縛り付けている。
そして、他者から生命力を奪う力を彼女は与えられていた。
いまならば分かる。
あの戦いの最中、恭平から彼女に生命が流れているように感じたのはけっして錯覚ではない。
シャルロットと戦うということは、恭平一人で、二人の人間と戦っているようなものなのだ。
そして、恐ろしいことにその半分は自分でできている。
少なくとも、二人を相手にして圧倒できるようでなければ、勝つ事は難しいだろう。
「少し……力を付けよう……。」
無謀と勇気は異なる。
夜の帳がおりた遺跡の平原に、息を潜めながら恭平は先を思った。
強くならなければ。
-1-
大地に伏して眠り、朝と共に目覚めた。
荷物を担いで姿勢を低くして進む。紛い物の空は眩しく、太陽はさんさんと輝いていた。
風の匂いには、新緑のむせ返るような匂いが混じる。
遺跡の中にも季節があるのだとすれば、これは夏か。
「……。」
全身から汗が吹き出し、恭平の背を濡らしている。
そのおかげで、ときおり吹く風がとても爽やかに感じられた。
水筒から水を一口。探索中、水はとても貴重なものだ。
おいそれと生水を口にするわけにもいかない。
生水であろうと恭平の身体には問題ないのだが、この島の水には何が潜んでいるか分かったものではない。
できることならば、持ってきた水に頼ったほうが安全だろう。
どうも、前回、しこたま水を飲んでからというもの火に対する抵抗力が落ちているように感じられる。
そこに、因果関係があるのかどうかはまったく分からないが。
しっかりと水筒の蓋を閉め、恭平は再び進行を開始した。
「ん……?」
平原の中に点在する林は姿を隠すには最適で、夏の日差しを防ぐこともできた。
中を通り抜けていく風は、心地よい。
その林の中で、何者かが恭平のことを見ていた。
正しくは、何者かの視線上へ恭平が踏み込んだのだ。
人間のものではない。
「……。」
木の枝が揺れ、葉が舞い落ちる。
木の上から、ソレは己の巣に飛び込んできた侵入者へと飛び掛った――。
酒を酌み交わす約束を交わして、恭平は先に魔方陣へと足を進めた。
目指す魔法陣の形を思い浮かべると、いつもの浮遊感に身体が包まれる。
そして、恭平を見ていた女の姿が歪み、その内に姿が掻き消える。
残されたのは薄暗い遺跡の壁と、閉鎖空間にしては澱んでいない風の流れ。
否、女が消えたのではなく、恭平が移動したのだ。
恭平は再び、遺跡の中にあった。
「……く。」
最初にしては随分と軽減されたが、理由のない頭痛が恭平を悩ませる。
魔方陣による転送というシステムに、なんらかの問題があるのだろう。
痛みはすぐに消え、恭平は歩き出した。
目指すのはシャルロットと名乗った死に損ないの待つ、山岳地帯だ。
一部、不明な道のりはあるものの、その途中まではほぼ頭の中に叩き込んである。
穴ぼこだらけの回廊さえ迷わずに抜けられたなら、そこに辿り着くことができるだろう。
何度となく通った最初の山岳地帯を抜ける。
以前、無理やり押し通った断崖などは、町にいる間に仕入れた迂回路の情報をもとに回避した。
頭上を旋回する小鷹や、岩に擬態した怪物の目を逃れて、慎重に進んでいく。
いつしか、山岳地帯を抜け、恭平は平原に到達していた。
「……。」
木陰や草の繁みに隠れるようにして進む。
何人かの冒険者や人型植物たちが恭平の眼前を通り過ぎて行ったが、気付かれることもない。
順調に進んでいる。これならばすぐにもあの死に損ないと再び対峙することも適うだろう。
しかし、勝つ算段は見つかっていない。
単純な戦力の差で、恭平は敗れていた。
相手が人間ならば、策を講じることもできただろう。
まだしも、他の怪物であるならば、何らかの手段もあったかもしれない。
「奴は、強い……。」
何かを奪う為にある少女は、執念に縛られていた。
妄執は力となり、彼女を生に縛り付けている。
そして、他者から生命力を奪う力を彼女は与えられていた。
いまならば分かる。
あの戦いの最中、恭平から彼女に生命が流れているように感じたのはけっして錯覚ではない。
シャルロットと戦うということは、恭平一人で、二人の人間と戦っているようなものなのだ。
そして、恐ろしいことにその半分は自分でできている。
少なくとも、二人を相手にして圧倒できるようでなければ、勝つ事は難しいだろう。
「少し……力を付けよう……。」
無謀と勇気は異なる。
夜の帳がおりた遺跡の平原に、息を潜めながら恭平は先を思った。
強くならなければ。
-1-
大地に伏して眠り、朝と共に目覚めた。
荷物を担いで姿勢を低くして進む。紛い物の空は眩しく、太陽はさんさんと輝いていた。
風の匂いには、新緑のむせ返るような匂いが混じる。
遺跡の中にも季節があるのだとすれば、これは夏か。
「……。」
全身から汗が吹き出し、恭平の背を濡らしている。
そのおかげで、ときおり吹く風がとても爽やかに感じられた。
水筒から水を一口。探索中、水はとても貴重なものだ。
おいそれと生水を口にするわけにもいかない。
生水であろうと恭平の身体には問題ないのだが、この島の水には何が潜んでいるか分かったものではない。
できることならば、持ってきた水に頼ったほうが安全だろう。
どうも、前回、しこたま水を飲んでからというもの火に対する抵抗力が落ちているように感じられる。
そこに、因果関係があるのかどうかはまったく分からないが。
しっかりと水筒の蓋を閉め、恭平は再び進行を開始した。
「ん……?」
平原の中に点在する林は姿を隠すには最適で、夏の日差しを防ぐこともできた。
中を通り抜けていく風は、心地よい。
その林の中で、何者かが恭平のことを見ていた。
正しくは、何者かの視線上へ恭平が踏み込んだのだ。
人間のものではない。
「……。」
木の枝が揺れ、葉が舞い落ちる。
木の上から、ソレは己の巣に飛び込んできた侵入者へと飛び掛った――。
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