血の染み付いた手帳
しがない傭兵が偽りの島で過ごした日々の記録
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09030102 | Day14 -手繰- |
-0-
魔方陣へと続く、階段を――。
いや、階段のように折り重なった人造の石壁の上を跳ねるようにして恭平は進んでいた。
荷物の中からいくつかの不要な食物を選び捨てた。
おかげで身は軽くなっている。
長く続いた砂地を越えて、乾いた草原地帯を抜けた。
その先に開けた台地は、
人造のオブジェクトで形成された巨大な段々畑。
石畳のそこここには土がまかれ、
そこに小さなオレンジ色の果実がたわわに実っている。
余裕があれば、それが食用なのかどうかを確認したいところだったが、
今の恭平にその余裕はない。
淡い灯りに包まれた台地は、爽やかな風が吹くことも相まって、
陽のあたる外の世界を思わせる健やかな気配を漂わせていた。
しかし、そこの守人なのだろう。
台地へと足を踏み入れた恭平を待っていたのは、肉も腐れ落ち骨だけとなった死者たち。
――彼らは俗にスケルトンと呼ばれる。
恭平は知る由もないが、魔術師にとっては一般的に使役される存在だった。
恭平にとって救いであったのは、彼らの動きが非常に緩慢だったことだろう。
ほとんどのスケルトンはブロックの上をうろうろとするだけで、恭平まで迫っては来ない。
しかし、その数が多かった。
壁を蹴り、はるか頭上のブロックに指先を引っ掛けて身体を引き上げる。
隙あらば、スケルトンはそんな恭平の足を引っ張り、下へと引きずりおろそうとした。
生前の力を遥かに超える怪力をみせる。
その力に抗い、上を目指すうちに恭平の指先はあかぎれ、ずたぼろになっていった。
ここに、魔方陣があることは直感的に分かっていた。
遥か頭上の先、ひときわ大きなブロックの上に光り輝く魔方陣が見える。
そこまで辿り着けば、今回の探索は終了となる。そのはずだった。
スケルトンを足蹴にして、引き剥がす。
瞬時に次のブロックを見極め、上へと蹴りあがった。
上に進めば進むほど、スケルトンの数は増え、ブロックは細分化しているようだ。
青々と茂った植物が、彼らの姿を隠し恭平の判断を惑わせる。
ひとつのブロックを目指して地面を蹴った。
そのブロックの草の陰から、上半身だけのスケルトンが恭平へと掴みかかる。
片腕だけをへりに引っ掛け、逆にそのスケルトンの腕を掴み返した。
思いっきり引っ張り後方へと投げ飛ばす。
骨だけの相手だ、重さはさほどでもない。
遥か下方から、骨の砕ける乾いた音が響いた。
そのブロックから先は、緩やかな傾斜になっている。
「……ち。」
恭平は舌打ちし、短剣を引き抜いた。
人が二人並んで歩けるほどの小道には、スケルトンたちがひしめき合っている。
強行突破――残された道はただひとつ。
構えた恭平に、先頭のスケルトンが掴みかかっていった。
-1-
久方ぶりの外は、多少なりとも心地よかった。
恭平とて人間だ。長い地下での生活は、
そこが広大で草原や森を備えているからといって気持ちよいものではない。
感覚が優れているからこそだろうか、そこに仕組まれた人の悪意のようなものを感じ取ってしまう。
そこは本来ならば、そういう場所ではないのだろう。
しかし、今回のことを仕組んだ何者かは、遺跡の仕組みを熟知してそれを利用している。
今回の依頼。それが何者かが仕組んだ罠であることは明白であった。
いや、罠ですらないのか。
大勢の冒険者たちがこの島を訪れている。
一部の人間を除いて、彼らに共通する点は招待状を受け取っていることだ。
恭平も形こそ違えど、そういった招待状を受け取ったのだろう。
思えば、依頼書の隅に脈絡のない一文があったように思う。
はたして、何者が仕掛け、何故、恭平をこの場に呼び込んだのか。
依頼の遂行は、可能性がある限り続けるつもりではあったが。
これが仕組まれた話しであるのならば、依頼者を見つけだし制裁を加えなければならない。
「……手がかり、か。」
その為の情報は絶対的に不足していた。
かつて、ここと似たような島にいたと言う人間、幾人かと出会ってはいる。
だが、彼らからの情報も決定的ではない。
小隊と呼ばれる、一団がいるらしい。
遺跡の中で役割を担う彼らなら、何か知っているのだろうか。
いつのまにか小奇麗に整理整頓されたアトリエ。
拠点ではあるが、自分の居場所であると言う感覚はない。
ほろ苦いコーヒーで喉を潤わせながら、恭平は考える。
地図には一本のルートが示されていた。
出会わなければならない者が、大勢居るようだ。
「……。」
琥珀色の液体を飲み干し、恭平は席を立った。
積極的に情報を集め場ならない段階にきたらしい。
その懐には、探索で得たいくつかの材料がおさめられている。
-2-
街は冒険者で賑わっていた。
これほどまでに増えていたか、と恭平は少し驚かされる。
寂れた港町の風情を漂わせていた島唯一の街が、冒険者の流入によって賑わっていたのは知っていた。
しかし、この短期間でここまで変わるものだろうか。
ある場所には、冒険者が運営する店が立ち上がり。
また、ある場所には、いつの間にか豪奢な屋敷がたちあがっていたりもした。
大勢の冒険者が足を止め、意見交換に興じているのは酒場の前だ。
そこでは時折、小競り合いのようなことも起こっているが、酒場の店主なのだろうか、
それは人ではあるまい――黒光りする巨大な鎧がぬっと現れると、いさかう冒険者を鎮めてしまった。
その場所にはその場所なりのルールがあるのだろう。
鎧が現れる際にチラッと覗けた店内には、恭平も見知った顔がやはり談話に興じていた。
多種多様――もはや何処の国とも判断の付かない雑多な町並みは、闇市を思わせるものがある。
これだけ店が多くては、情報を仕入れるにせよ。
装備の新調をするにせよ。難しいものがある。
信頼に値する商店を探すと言うのは、なかなか骨が折れるのだ。
これならば、いっそのこと見知った人間を捕まえてしまった方が早いのかもしれないが。
そういうときに限って、なかなか見つからないものなのだ。
あまり時間に余裕のある身分でもない。
酒場の中まで押し入って、頼みいるというのも、無粋というものだろう。
地道に足で探す他はないか――。
「――。」
そう、恭平が判断しかけたとき、恭平に後ろから声をかける者がいた。
雑多な音にまぎれて声はよく聞き取れなかったが、恭平は油断なく振り向いた。
そこには――。
魔方陣へと続く、階段を――。
いや、階段のように折り重なった人造の石壁の上を跳ねるようにして恭平は進んでいた。
荷物の中からいくつかの不要な食物を選び捨てた。
おかげで身は軽くなっている。
長く続いた砂地を越えて、乾いた草原地帯を抜けた。
その先に開けた台地は、
人造のオブジェクトで形成された巨大な段々畑。
石畳のそこここには土がまかれ、
そこに小さなオレンジ色の果実がたわわに実っている。
余裕があれば、それが食用なのかどうかを確認したいところだったが、
今の恭平にその余裕はない。
淡い灯りに包まれた台地は、爽やかな風が吹くことも相まって、
陽のあたる外の世界を思わせる健やかな気配を漂わせていた。
しかし、そこの守人なのだろう。
台地へと足を踏み入れた恭平を待っていたのは、肉も腐れ落ち骨だけとなった死者たち。
――彼らは俗にスケルトンと呼ばれる。
恭平は知る由もないが、魔術師にとっては一般的に使役される存在だった。
恭平にとって救いであったのは、彼らの動きが非常に緩慢だったことだろう。
ほとんどのスケルトンはブロックの上をうろうろとするだけで、恭平まで迫っては来ない。
しかし、その数が多かった。
壁を蹴り、はるか頭上のブロックに指先を引っ掛けて身体を引き上げる。
隙あらば、スケルトンはそんな恭平の足を引っ張り、下へと引きずりおろそうとした。
生前の力を遥かに超える怪力をみせる。
その力に抗い、上を目指すうちに恭平の指先はあかぎれ、ずたぼろになっていった。
ここに、魔方陣があることは直感的に分かっていた。
遥か頭上の先、ひときわ大きなブロックの上に光り輝く魔方陣が見える。
そこまで辿り着けば、今回の探索は終了となる。そのはずだった。
スケルトンを足蹴にして、引き剥がす。
瞬時に次のブロックを見極め、上へと蹴りあがった。
上に進めば進むほど、スケルトンの数は増え、ブロックは細分化しているようだ。
青々と茂った植物が、彼らの姿を隠し恭平の判断を惑わせる。
ひとつのブロックを目指して地面を蹴った。
そのブロックの草の陰から、上半身だけのスケルトンが恭平へと掴みかかる。
片腕だけをへりに引っ掛け、逆にそのスケルトンの腕を掴み返した。
思いっきり引っ張り後方へと投げ飛ばす。
骨だけの相手だ、重さはさほどでもない。
遥か下方から、骨の砕ける乾いた音が響いた。
そのブロックから先は、緩やかな傾斜になっている。
「……ち。」
恭平は舌打ちし、短剣を引き抜いた。
人が二人並んで歩けるほどの小道には、スケルトンたちがひしめき合っている。
強行突破――残された道はただひとつ。
構えた恭平に、先頭のスケルトンが掴みかかっていった。
-1-
久方ぶりの外は、多少なりとも心地よかった。
恭平とて人間だ。長い地下での生活は、
そこが広大で草原や森を備えているからといって気持ちよいものではない。
感覚が優れているからこそだろうか、そこに仕組まれた人の悪意のようなものを感じ取ってしまう。
そこは本来ならば、そういう場所ではないのだろう。
しかし、今回のことを仕組んだ何者かは、遺跡の仕組みを熟知してそれを利用している。
今回の依頼。それが何者かが仕組んだ罠であることは明白であった。
いや、罠ですらないのか。
大勢の冒険者たちがこの島を訪れている。
一部の人間を除いて、彼らに共通する点は招待状を受け取っていることだ。
恭平も形こそ違えど、そういった招待状を受け取ったのだろう。
思えば、依頼書の隅に脈絡のない一文があったように思う。
はたして、何者が仕掛け、何故、恭平をこの場に呼び込んだのか。
依頼の遂行は、可能性がある限り続けるつもりではあったが。
これが仕組まれた話しであるのならば、依頼者を見つけだし制裁を加えなければならない。
「……手がかり、か。」
その為の情報は絶対的に不足していた。
かつて、ここと似たような島にいたと言う人間、幾人かと出会ってはいる。
だが、彼らからの情報も決定的ではない。
小隊と呼ばれる、一団がいるらしい。
遺跡の中で役割を担う彼らなら、何か知っているのだろうか。
いつのまにか小奇麗に整理整頓されたアトリエ。
拠点ではあるが、自分の居場所であると言う感覚はない。
ほろ苦いコーヒーで喉を潤わせながら、恭平は考える。
地図には一本のルートが示されていた。
出会わなければならない者が、大勢居るようだ。
「……。」
琥珀色の液体を飲み干し、恭平は席を立った。
積極的に情報を集め場ならない段階にきたらしい。
その懐には、探索で得たいくつかの材料がおさめられている。
-2-
街は冒険者で賑わっていた。
これほどまでに増えていたか、と恭平は少し驚かされる。
寂れた港町の風情を漂わせていた島唯一の街が、冒険者の流入によって賑わっていたのは知っていた。
しかし、この短期間でここまで変わるものだろうか。
ある場所には、冒険者が運営する店が立ち上がり。
また、ある場所には、いつの間にか豪奢な屋敷がたちあがっていたりもした。
大勢の冒険者が足を止め、意見交換に興じているのは酒場の前だ。
そこでは時折、小競り合いのようなことも起こっているが、酒場の店主なのだろうか、
それは人ではあるまい――黒光りする巨大な鎧がぬっと現れると、いさかう冒険者を鎮めてしまった。
その場所にはその場所なりのルールがあるのだろう。
鎧が現れる際にチラッと覗けた店内には、恭平も見知った顔がやはり談話に興じていた。
多種多様――もはや何処の国とも判断の付かない雑多な町並みは、闇市を思わせるものがある。
これだけ店が多くては、情報を仕入れるにせよ。
装備の新調をするにせよ。難しいものがある。
信頼に値する商店を探すと言うのは、なかなか骨が折れるのだ。
これならば、いっそのこと見知った人間を捕まえてしまった方が早いのかもしれないが。
そういうときに限って、なかなか見つからないものなのだ。
あまり時間に余裕のある身分でもない。
酒場の中まで押し入って、頼みいるというのも、無粋というものだろう。
地道に足で探す他はないか――。
「――。」
そう、恭平が判断しかけたとき、恭平に後ろから声をかける者がいた。
雑多な音にまぎれて声はよく聞き取れなかったが、恭平は油断なく振り向いた。
そこには――。
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